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第10章 主人と従者と大団円Ⅰ 王子攻めまくる之巻

「前回までのあらすじ!」

「うむ」

「ご主人が武闘大会優勝! まさかご主人が王子さんの嫁になっちまうのか!?」

「そうなる前に全力で逃げたい!」

「んでもって公爵ジジィがついにクーデター!」

「みんな無理するな! 私にまかせろ!」

「んんんんでもって、ご主人! おいらを踏んづけて、元気爆発!」

「そこを直列で繋ぐな!」

「テンション高いな貴様ら!?」

     Ⅹ   主人と従者と大団円



 それは奇妙な戦場だった。

 高い場所からアリーナを見渡してみれば、親衛隊と近衛隊が入り混じっての大混戦が繰り広げられている一方で、その中心では一人の女(実は男)に対して、数十人の近衛隊が群がっているのだ。

 しかも、女戦士の闘いがほぼ拮抗しているのを嘲うかのように、中央では絶対有利なはずの近衛隊が猛烈な速さでその戦力を減らしていた。

「くそッ、たかが一人だ! 押し切れ!」

 近衛隊は次々に飛び掛かる。だが、吹き抜ける風のようなシアンの動きを、誰一人として捉えることが出来ない。

「つ……強いッ!」

「だめだ速すぎる!」

「なんだこいつ!?」

 百戦錬磨の女傑の渦がシアンを呑み込んでいるのではない。

 シアン・ルーンという名の旋風に、彼女らは自ら飛び込んでいるのだ。

 誰が、どこから、どう攻めても、自慢の武器は弾かれ、いなされ、避けられた。

 そして神速のキックとヌンチャクが頭に、腹に、膝に、腕に叩き込まれた。

 シアンの反撃は精密だった。

 相手を蹴り飛ばして後続にぶち当て、隊列を崩させる。

 武器を(ふる)ってきた隊員の腕をいなし、別の相手へと誘導して同士討ちさせる。

 ヌンチャクで手首や鎖骨を砕く。

 脇の下を蹴り上げて、肩を脱臼させる。

 膝の皿を蹴り割る。

 一撃一撃が戦闘不能者を生んでゆく。シアンが動けば誰かが倒れるのだ。 

 なかには、予戦で一度シアンに手痛い敗北を喫した者もいた。今度は武器も短かく、イリーズもいない。強制退場のルールもない。雪辱を晴らすには絶好のチャンスのはずだった。

 だが、彼女らが得たのは栄光でも快感でもなく、前回を超える強烈な一発だった。

「馬鹿な! (ドラゴン)でもあるまいに──ッ!」

 そう叫んで飛び込んだ女戦士も、次の瞬間にはヌンチャクを頭に受けて昏倒した。

 そして彼女の一言が、残る近衛隊員の行動を決定づけた。

 シアンが動きを止めた。

 地面には、闘えなくなった隊員が累々と横たわり、苦悶の呻きをあげて、来るかも分からない救助を待っている。

 立っている者は十人もいない。

(ドラゴン)……」「(ドラゴン)だって……?」

 恐怖が、彼女らの間に伝播していた。

 ひとたび怒れば街を焼き払い、万兵を屠り、大地の形すら変えるという地上最強の種族。

 近寄ることすら敵わぬシアン・ルーンの姿に、その脅威が重なっていた。

「む、無理だ! アタイは降りる!」

「オレもだ! 敵いっこねぇ!」

 隊員達が次々に踵を返して逃亡を始める。

 シアンは彼女らを追わなかった。

 だが、外側から駆けてきた二つの影が、瞬く間に逃亡者たちを斬り伏せた。

「自分達だけ逃げようなんて、甘いわね」

「クーデターに荷担した罪。きっちり裁かれていただきます」

 ウィリアミナとマデリーンだった。

「……殺してないだろうな?」

 意中の少女が牢から解き放たれたことを喜びつつも、近衛隊員が死んでないかの方が気になるシアンであった。

「愚問です。急所は外しましたわ」

 マデリーンが細剣(レイピア)をクルクルと回しながら答える。

「アタシの剣は片刃だから峰打ち。こういうときは楽でいいわ」

 ウィリアミナも刀身一メートルの大型剣(バスタード・ソード)を地面に刺し、ニッと白い歯を見せた。

 しかし、シアンが見る限り彼女の型は剛剣ライマット。峰打ちとはいうが、脚の骨すら一撃で粉砕できる。

「私たちは周囲の敵を掃討するわ。シアン、あなたは王子を探して」

「分かった」

 そう言いながらも、シアンは動かなかった。

「シアン? どうしたの?」

「少し待て……いや、先に行ってくれ────う……ッ!」

 途端に、膝を折って地面に這いつくばった。

「シアン様ッ!」

 傷を負ったか。マデリーンらが駆け寄る。

 だが、違った。

「ぅおえぇぇ……ッ!」

 激しい吐き気との死闘が開始された。

 やはり、シアンの女傑恐怖症は克服されていなかった。近衛隊を退けたのは、己の使命を果たし、スワルの無念を晴らす一心で発揮した、極限の集中力が起こした(わざ)だった。

 しかしながら気を抜いた瞬間、集中力によって抑え込まれていた拒絶反応は一気に発現する。怒りに〝我を忘れた〟わけではないがゆえの痛烈な反動である。

 まして、いつの間にやらアリーナは女傑の坩堝(るつぼ)

 いっそ失神してしまいたかった。

「……行きましょ」

「ええ」

 苦しみ悶えるシアンに背を向けて、ウィリアミナたちは仲間たちを助けに走った。



 甥と伯父の一騎打ちは続いていた。

 互いに大将同士。そのどちらかが倒れればこの闘いは終わる。にもかかわらず、両陣営の戦士達は誰ひとりとして助太刀に入らない。

 入れないのだ。

 歴戦の強者達を躊躇わせるほどに、二人の剣筋は激しかった。

 常時、一秒間に二合は刃を交え、多いときでは四合にも達する。互いに一メートル半という超大型剣でありながら、細剣の達人クラスの速度だった。常人の剣捌きではない。

 その剣術の名はウィンバスタ。国父シュヴァーツ王が、ボルト、ライマット、スウェッソン、レイオンの四つの剣術の長所を融合させて編み出した絶技であり、オリハルコンの剣とともにメガロニアの王位継承者に代々受け継がれてきた国の宝であった。

 その太刀筋は柔軟にして豪快。リーチと速度と重さを兼ね備え、敵の攻めに対しては真っ向から叩き潰し、守りに対しては虚を突く。

 だが、その難度ゆえに、ウィンバスタは人も剣も選ぶ。

 その習得には人並み外れた才能と、巨大な剣を揮うだけの腕力が必要とされた。また並の剣では太刀筋に絶えられず、瞬く間に砕け散ってしまう。

 それゆえ、メガロニアでは次代の王として認められた者にのみこの剣術と、その技に耐えうるオリハルコンで造られた大剣が授けられてきた。

 そして今代では、現王ラルフの嫡子たるニギエラこそがその継承者であるはずだった。

 だが、予想外の事態が生じた。

 公爵もまた、ウィンバスタを操っているのだ。

 ニギエラは焦っていた。ウィンバスタ同士の闘いなど考えたこともなかったし、想定する必要すらないはずだった。

 「恨むならば貴様の父を恨むがいい。あやつは己の王位継承前、儂をこの剣術の練習台にして、さんざんコケにしてくれたのだ。だが、おかげで儂はこれを学ぶことが出来た。身から出た錆、親の因果が子に報うとは、まさにこのことよ。奴の尊大さが、儂に与えた屈辱が、息子を殺すのだ!」

 伯父が王の剣技を使えると知って(おのの)いた甥に公爵はそう言い放った。これがニギエラの闘志をさらに揺さぶったのは言うまでもない。

 二人の闘いは互角に見えて、その実、表情を注視すればどちらが優位かは一目瞭然であった。

 さらに、公爵の剣は金。

 強度こそ最高だが、柔らかく重すぎて武器にならないとされる黄金である。

 無論、鋼鉄の刃の表面を金で覆っているに過ぎないのだろうが、その軟度がオリハルコンの鋭さを受け止めているのだ。

 しかし、刀身が一メートル半ともなれば、その重量は二〇キロを下るまい。その超重量の剣を、あろうことかヴランティールは、オリハルコンに劣らぬ速度で揮っているではないか。

 斬り結ぶたびに、ニギエラは手が痺れる思いだった。

 何合切り結んだかも覚えてないが、よく今まで剣を落とさなかったものだ。

 対して、ヴランティールにはまったく疲れた様子もない。魔薬を投与しているのは明白だったが、よもやここまで力を増していたとは(これもニギエラにとっては予想外だった)。

 果たして、公爵の剣が折れるが早いか、ニギエラの腕が折れるが早いか。

「ぐ──ッ!」

 後者が近かった。上段からの一振りに刃を合わせた途端、遂にニギエラの手首が悲鳴を上げた。

 気力で持ち堪えるが、力が入らない。

 次の一撃がくれば、もう終わりだった。

「死ね!」

 公爵も、それがとどめになると確信し、小細工なしに再び大上段から振り下ろした。

 ニギエラは防御するしかない。

 圧倒的な力に押し切られるままに、頭を断ち割られるか────

 だが、黄金の剣は止まった。

 ニギエラの剣に、さらに二本の剣と……丸底鍋(フライパン)が加勢していた。

「なんで鍋!?」

 王子が叫ぶ。

「鍋だと!?」

 流石の公爵も驚いて眼を円くした。

「おい貴様、ふざけるのも大概にしろ!」

 二本の剣の主、イリーズが怒鳴った。

 王子の危機に身を挺して飛び込んだものの、鍋のせいで緊張感も、自分の存在も、どこかへと忘れられてしまった。

「にゃっはー!」

 その丸底鍋の持ち主が誰かなど、言わずもがなである。

「ぱんぱかぱーん! 『ご主人は女傑恐怖症』裏話コーナー!」

「もう話すこともなくなってきたんじゃないか?」

「いやいやご主人、おいらは覚えてやすぜ!」

「なにをだ?」

「語られなかった裏話が一個、保留になってやす!」

「え、どこだ?」

「第8章1節、二回戦の始め! この物語はもっと死者が出る予定で、とくに書き始めは死ぬ運命にあったけど結局回避されたキャラが二人いるって話!」

「ああー」

「ここまで来たら、もういいんじゃねぇでやすか?」

「そうだな……ここへきて死んだところでチープ極まりないから、いっそ生き残ると教えてしまうが……ウィリアミナとマデリーンだ」

「えええーそんな主要キャラ!?」

「まずウィリアミナは大会に出場する予定だった」

「え? 王子さんが好きで?」

「いや、彼女の場合は隊長の援護だ。当初の構想ではイリーズを後押ししようとする隊員達を何名か出場させるつもりだったからな」

「それはそれで、親衛隊の絆とかが見られて良かったと思いやすが?」

「結局はスワルやイグニスに狩られるように負けていって、イリーズを除けばウィリアミナ以外全滅するんだ。スワル達の強さは示したいが、親衛隊を貶める必要は無いと思ってな。視点を私とイリーズに集中させたかったのもあるし」

「なにより、その時点で完全シリアスに流れやすね」

「それが一番大きい」

「で、なんとなく読めてきたんでやすが、本戦に出たウィリアミナさんは……」

「本編のクーと同じ状況でスワルに敗北。首の骨が折れて死亡」

「だ、め、だ……! それは、だめでやす……!」

「クーは没キャラの集合体だと前に言った気がするが、ウィリアミナと同じライマット剣術を使うのが、その名残だ」

「負けるけど生き残るって道はなかったんですかい?」

「死なないなら死なないで、彼女には説明役をやってもらおうと思いついてな。とくにイリーズの」

「ああ、あの空中回廊の。たしかにウィリアミナさんの方がコミュ力高そうだし、姐御とおいら達を間接的に繋ぐ役はうってつけかもね」

「そういうことだ。闘うシーンは少ないが、いい印象は与えられていると思う」

「生き残ってくれてよかったでさ」

「まだ決戦終わってないけどな」

「次回はマデリーンさんの方を聞きたいと思いやす」

「あ、なんか今回すごく裏話コーナーっぽいな」




次回予告!


 誰が止めるか公爵を!?

 弱った王子をイリーズに預け、

 単身、マオが挑みかかる!

 そこに次々合流してくる、

 フルレラ、ウィリアミナ、マデリーン!

 ニギエラもイリーズも前に出て、

 メガロニア・オールスターズで悪を討つ!

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