99 定員オーバー
その女は、ある日突然、一瞬にして生きる希望を失った。結婚を約束していた恋人が、交通事故に遭って亡くなったのである。
それからの彼女は、悲しみに明け暮れるだけの日々を送っていたが、やがて「恋人の元へ行きたい、そこで一緒に暮らしたい」と、真剣に思い詰めるようになった。
そしてついに……。
彼女は精神を病み、病院で処方された睡眠薬を一度に飲んでしまった。
気がつくと……。
彼女は三途の川の此岸の船着き場で、彼岸へと渡る船の乗客たちの列に並んでいた。
死んだ恋人を追ってきたのである。
渡し船に乗る順番が近づき、そしていよいよ彼女が船に乗り込もうとしたときだった。
「おまえは次の船だ!」
船頭がそう言って、彼女の乗船を拒否した。
それから理不尽にも、船頭は彼女の後ろに並んでいた男を乗せようとした。
一刻も早く、彼女は恋人に逢いたかった。納得がいかず、船頭の腕を取って訴えた。
「どうしてなんです? その人より、私が先に並んでいたんですよ」
「そんなことはわかっておる。ただこの船は、定員三十名という決まりがあってな。おまえを乗せると、一名定員オーバーになるんだよ」
「でも、その人を乗せたら同じではないですか」
「おまえ、もしかしたら知らないのか?」
船頭が女の腹のあたりを見て言った。
「何をです?」
「おまえは二名なんだよ」
「二名って?」
「おまえの腹の中には、もう一人いるってことだ」
「えっ!」
彼女はこのとき初めて気がついた。
おなかの中に、愛する恋人の子供が宿っているということを……。
彼女は渡し船を見送った。
それから死者の列を離れると、漆黒の闇のなか、生死をさまよいながら、現世への帰り道を必死で歩き続けた。
おなかの子の命を、自分の犠牲にしてはならないと……。
女は気がつくと部屋で倒れていた。
幸いにも生きていたのである。
彼女は心に誓った。
恋人の子を産んで、その子と二人で強く生きていこうと……。




