8 舌を抜かれた女
地獄の鬼どもによって、閻魔大王の前に一人の女が引き出された。
これより審判が始まる。
「して、この女の罪状は?」
閻魔が鬼に問うた。
「結婚詐欺であります」
「それにしては器量はいまひとつ、スタイルもそれほどではないが……」
「現世では実際に七人もの男をだまし、大金をせしめております」
「七人もか?」
「とにかく口がうまいのです。虚実を巧みに使い分けるため、被害者らはそれにだまされたようです」
「そういうことであったか。では、これより裁判を始める。そこの女、しかと顔を上げい」
「閻魔大王様、わたしが悪うございました。どうかご容赦を」
女が閻魔をあおぎ見て懇願する。
「たとえ人を殺めずとも、オマエのやったことは罪なのだ。それなりの罰は避けられぬ」
「そんなあ」
女は深くうなだれた。
「反省しておるようだな」
「はい、それはもう。もう二度とあのようなことはいたしません」
「そうか」
閻魔はふむとうなずき、言葉を続けた。
「オマエにも言い分があろう。聞いてやるから、なんなりと申してみろ」
「わたしには病身な両親がおりまして。どうしてもお金を工面しなければならなかったんです」
「そうであったか。まあ、そのようなことであれば情状酌量の余地はあるな」
「どうかご慈悲を」
女が地面にひれ伏した。
「だが、無罪とはいかんぞ」
「では、わたしにはどんな罰が?」
「舌を抜いて現世にもどす。舌がなければ、これまでのように嘘をつけぬからな」
「地獄に行かないですむんですね」
「ああ。今回が初犯であることに加え、被害者の男たちにも下心があっただろうからな」
「ありがたいことでございます」
「この女、舌抜きの刑に処する」
閻魔はかしこまった声で、女に舌抜きの審判を下したのだった。
鬼に舌を抜かれた女は、火車に乗せられ現世に送りもどされた。
火車が地獄へと帰っていく。
闇に消えゆく火車に向かって、
「あかんべー」
女はベロを大きく出した。
残ったもう一枚の、男たちをだました舌で……。