4 お金のかかる人
妻が服やズボンをどっさりかかえてきて、オレにちょっと着てみろとうながす。
「日曜日、フリーマーケットがあるの。着られなくなったものを出そうと思ってね」
どうやら小さくなって、いらなくなったものを処分するようだ。
オレはまず手始めに、ずいぶん前に買ったズボンをはいてみた。
尻がつかえて入らない。
出されたものをかたっぱしから着てみたが、結果はいずれも同じ。ジャンパーなどの上着も、今の体型にはかなりきつかった。
「太るたびに買ってるのよ。ホント、あなたってお金のかかる人ね」
妻がぶつぶつと不平をこぼす。
たしかにオレは、結婚してから十キロほど体重が増えていたのだ。
「ねえ、このさいビールをやめたら? それにご飯も減らして」
「メシもか?」
「健康が一番でしょ。それに食費が浮くし、服代もかからなくなるしね。一石三鳥じゃない」
妻がシャレにもならないことを言う。
「これ、みんな出すのか?」
「ううん、どれも出さない。あなたがやせれば、また着れそうだから」
妻はすべて衣装ケースにもどすと、次は自分のものに手をつけ始めた。
「これも出そうっと」
服やスカートを体に当てながら、妻が次々とナイロン袋につめこむ。
ほとんどを出す方に分けている。
「最近、太ったのか?」
結婚以来、妻は体型が変わっていないはずだ。
妻もそれが自慢でことあるごとに、太ったオレにイヤミな言葉をあびせていたのだ。
「太ってなんかいないわよ」
「じゃあ、まだ着られるんじゃないのか?」
「ダメよ、こんなの」
「どうして?」
「流行おくれなのよ」
「でも、買ってそんなにたってないだろ」
「二年、三年ぐらいかな」
「もったいないよ」
「ううん。売れたら、ちょっぴりだけどお金になるもの。ほかに出すものないしね」
妻が嬉々として言う。
ホント、金のかかるヤツだ。