3 蓮池のほとりで
すがすがしい朝。
お釈迦様は一人のんびり、蓮池のほとりを散歩していらっしゃいました。
朝日にあたためられ、蓮の葉の露が銀の玉となって転がり落ちます。
と、そのとき。
お釈迦様は、短くて黄色の棒のようなモノ、それでいてやわらかなモノを踏みつけました。
「うわっ!」
その場からあわてて飛びのきます。
踏んだモノ。
それはお釈迦様に仕えている虎――虎太郎の尾の先っぽが、道端の草むらからわずかにのぞいていたのでした。
虎太郎が草の間から顔をのぞかせました。
「おや、お釈迦様でいらっしゃいましたか?」
「オマエ、そんなところでなにをしておるのだ?」
「鳥の声がするのでのぞいてみましたところ、このようなものがおりました。どうも怪我をしているようでして」
虎太郎の手のひらの中で、小さな鳥がブルブルとふるえています。
「どれ、わたしにかしてごらん」
お釈迦様は手のひらに小鳥を乗せますと、ひとつフッと息を吹きかけました。
小鳥が空へと飛び立ってゆきます。
「ところでお釈迦様、先ほどはたいそうおどろかれたようでありますが……。いったい、いかがなされましたのでしょうか?」
「いやな。オマエの尾を踏んだというのに、それをあるモノ、そう思うてな」
「あるモノとは?」
虎太郎が首をかしげてたずねます。
それには答えず、
「ははは……」
お釈迦様はただただ笑うばかりでありました。
――オレの尾に似てるとしたら……。
虎太郎は蛇を思い浮かべました。ですが、すぐに思い直し首を振ります。
――蛇ごときに、お釈迦様ともあろうお方が、あのようにおどろかれるはずがない。
虎太郎はおのれの尾の先をあらためて見ました。
――まさか?
お釈迦様に目をやります。
お釈迦様はすでに先を歩いていました。
――そうだったのか!
虎太郎はひとつうなずいてから、あわててお釈迦様のあとを追いました。
蓮池のほとり。
すがすがしい朝のできごとでありました。