24 神無月
人里離れた所に、うらぶれた小さな神社があった。
ある月のない深夜。
本殿にいた神様は、境内から拝殿に忍びこむ男を見つけた。町の小さな暴力団のチンピラで、以前にもこの男には賽銭を盗まれたことがある。
――アヤツめ!
大切な賽銭を盗まれてなるものかと、神様は急いで拝殿へと向かった。
「神様、すまねえな。朝までに上納金を持っていかなきゃ、オレ、兄貴になぐられるんだ」
男が賽銭箱に手をかけた。
いかなる事情があろうと盗みは悪事であり、神様にすれば見逃すわけにはいかない。
神様はすぐさま狛犬の阿と吽に命令した。
「ヤツを痛い目に合わせてやれ!」
「はい、さっそく」
阿と吽は台座から飛び降り、男に向かってまっしぐらに走った。
二匹が男に飛びかかる。
「ぎゃー」
野良犬とでも思ったのか、男は境内を飛び出し、一目散に逃げ去っていった。
「おまえら、よくやったぞ」
神様は賽銭箱の前に立つと、ねぎらいの言葉を二匹にかけた。
「神様、だいじょうぶですか?」
阿が案じてたずねた。
「ああ、このとおりじゃ」
「いえ、お体ではなく」
吽が賽銭箱を指さす。
「おう、賽銭のことか。早くに気がついたんで無事なようだ」
「そうでございません。わたくしめが心配しておりますのは、すでに神無月だということであります」
「今年も、参拝客は少のうございました。神様、だいじょうぶですか、出雲の方は?」
阿と吽がそろって言う。
「ふむ」
神様は顔を曇らせてから、たしかにのう……と、ひとつ大きくうなずいた。
「さて、足りるかな?」
賽銭箱を開け、たまっている銭の勘定を始めた。
だが、すぐに首を振る。
「やはり」
「で、どうなされます?」
阿と吽が案ずるように、神様の浮かぬ顔をうかがい見た。
「きびしいからなあ、出雲の神は……」
神様は深いため息をついた。
今月は神無月。
出雲大社に出向く月なのだが、持参する金が、それもかなりの額がたりない。全国つつうらうら、いかなる神社であっても、納めるべき金額がきちんと割り当てられているのだ。
「今年もやるか……」
神様は遠い闇を見つめた。
夜明けまで、まだしばしの時がありそうである。
神様は阿と吽を従え境内を出た。
闇にまぎれ、これから近隣の神社をまわるのだ。
さいわい今月は神無月。
どこの神社も、神は出雲に出かけて留守である。
足りない分くらいの銭は集まるだろう。




