22 川を渡る日
三途の川の渡し場。
「後生ですから船に乗せてくださいよ」
「しつこい野郎だな。死んだ者でなければ乗せることはできん、さっきからそう言っておるだろうが」
「わたし、死んでますって」
「いや、オマエは生きておる」
先ほどから桟橋で、船頭と若い男がこぜりあいをしている。
そこへ。
「おい、どうしたんだ!」
船宿から船頭の頭がやってきた。
「この男、死んでもないのに船に乗せろといってきかないんです」
「そうであったか」
船頭頭は男に向き直って言った。
「オヌシ、死んでもないのに、なぜそんなに彼岸に渡りたがるんだ?」
「だって、このとおり死んでるんですから」
男は両手で頭をつかむと、それを首からすっぽり引き抜いてみせた。
「ふむ。それでもオマエは死んでおらん」
「どういうことでしょう? わたしは電車にしかれたんですよ。酔っぱらって、レールを枕に寝ていて」
「だが、心臓はまだ生きておる」
「はあ?」
男は納得のいかない表情で胸に手を当てた。
心臓の鼓動は伝わってこない。
「動いていませんが」
「オヌシがわからないだけだ」
「でも、現世では葬式をしてもらったし、体も焼いてもらったんですよ」
「もしや?」
船頭頭はなにかにピンときたらしく、男に持ち物をすべて出すよう命じた。
「これだけですが」
男が船の渡し賃の入った財布を渡す。
船頭頭は財布の中身を調べていたが、
「やはりな」
一枚のカードを取り出して男に見せた。
「それ、すっかり忘れてました。わたしのようなものでも、だれかの役に立ったんですね」
男が満足そうにうなずく。
「川を渡れる日が来るまで、オヌシは船宿で待っておるがいい」
「わかりました」
男はひたすら待つことになった。
川を渡る日が来るまで。
ドナーとして提供した心臓が停止する、その日が来るまで……。




