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20 夏休みの自由研究

 今年の夏休み。

 宿題の自由研究のテーマは、理科の授業で習ったパブロフの実験を選んだ。

 犬にエサをやるとき同時にベルの音を鳴らす。すると犬は、ベルの音を聞いただけでヨダレをたらすようになる。

 これがパブロフの条件反射だ。

 残念だが、ボクのうちにはイヌもネコもいない。そこで、スズメで実験することにした。


 毎朝、ボクは庭にパンクズをまいた。

 はじめたころ、スズメはパンクズに気づいてくれなかった。でも、いったんエサがあることを知ると、少しずつ庭に集まるようになった。

 条件反射の条件――それを、ボクはボクにした。

 ボクの姿を見るとエサがもらえると思わせ、スズメが庭に集まるようにするのだ。

 これにはパンクズをまくコツがいる。

 エサをまくボクの姿をスズメにしっかり覚えさせなければならないのだ。だからスズメに見えるよう長い時間をかけてパンクズをまいた。

 一週間後。

 スズメたちが屋根で、ボクがパンクズをまくのを見るようになった。

 ボクが庭から消えると、屋根の上からいっせいに庭におりてくる。

 ただ、これにはひとつ問題があった。庭に出るたびにエサをまかなくてはいけないのだ。

 なぜなら一度でもエサをまかなかったら、スズメたちはきっとこう思うだろう。

 アイツ、エサをくれなくなったんだと……。

 こうなっては、それまでの努力がだいなしになってしまう。

 外に出かけるとき。

 ボクはポケットに、かならずパンを入れておくようになった。そして、庭にパンクズをまいてから遊びに出かけた。

 実験は大成功だ。

 近ごろ、スズメたちはボクの姿を見ると集まってくるようになった。エサをくれる人、ボクのことをそう認めるようになったのだ。


 夏休みが終わるころ。

「あら、まだパンがいるの? 自由研究、もう終わったんじゃなかったかしら」

 お母さんに聞かれた。

「終わったんだけど……」

 ボクはうまく返事ができなかった。

 自由研究は終わったけど、スズメにエサをやることはまだ終わっていない気がする。

 なぜかスズメを見かけると、ボクはどうしてもパンクズをやりたくなってしまう。やらずにはいられなくなっていたのだった。


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