2 大事な忘れもの
雨の中、買い物から帰ってきた。
玄関を前にして、
――なにか買い忘れたような……。
ふとした不安にかられ、オレは妻から渡されていたメモ紙を広げた。
今日は遠くのホームセンターまで車で出かけ、頼まれた日用品のまとめ買いをした。その三つあるレジ袋の中身とメモとを見くらべながら、なにか買い忘れがないかひとつずつチェックしてゆく。
みんなメモどおり。
なに一つ、買い忘れたものはなかった。
それでもなにかしら、大事なものを忘れているような……そんな気がしてならない。
――メモ以外は頼まれてないはずだし。
必死に頭をめぐらせてみた。……が、それがなんなのかどうしても思い浮かばない。
――カサ? いや、ちがう。
車で行ったので、カサは持って出なかった。
――ケイタイだ!
ポケットをさぐるにやはりない。
置き忘れたとすれば、買い物をしたホームセンターのどこかである。
――でも、今日は一度も使ってないよな。
そんなことを考えていると……。
玄関の中からケイタイの着信音が聞こえた。
――あれっ?
オレのケイタイである。
鍵を取り出し、オレは急いでドアを開けた。
靴箱の上にオレのケイタイがある。出がけに靴をはいていて、どうもそのときうかつにも置き忘れたようだ。
――よかったな。
なくしでもしたら、妻にこっひどく叱られるところであった。
とりあえずホッとする。
ケイタイを耳にしたとたん、妻のキンキンとした声がした。
「あなた、どこにいるのよ!」
「たった今、家に着いたばかりだけど」
「なんで家なのよ?」
「買い物がすんで帰ったからじゃないか。用があるなら、玄関にいるんで出てこいよ」
「ねえ、どういうこと? 行けるわけないでしょ」
声のトーンが異常に高い。
「どうしてだ?」
「あたしが、今どこだと思ってるの。ホームセンターにいるのよ」
ここで……。
やっと忘れものに気がついた。
オレはまだ、妻を大事なもの――そう認識しているようだ。