19 小銭のぬくもり
仕事の帰り。
いつもの時間、いつものコンビニに立ち寄って、あなたは晩飯の弁当を買いました。
週に一度は食べる牛丼です。
あなたはアパートでの一人暮らし、炊事や片付けをするのがおっくうなのです。
だからといって食事を作ってくれる恋人などいませんので、いつもこうやって会社帰りに弁当を買って帰るのでした。
レジで会計をします。
「お弁当、温めますか?」
いつもの店員があなたに問うてきました。
二十歳ぐらいの女性の店員です。
あなたの好みです。
――手間をかけたくないな。
あなたはそんなつまらないことに気をまわし、いつも聞かれるたびに首を振って答えます。
「いえ、そのままで」
店員が袋に牛丼と割り箸を入れ、
「お釣りです」
あなたの手を包むようにして、小銭とレシートを渡してくれました。
一瞬、女の子の手のぬくもりがあなたの指先に伝わってきます。
――ふむ。
この瞬間がたまりません。
心まで温まる気がします。
でも、それだけ。
あなたは小銭をポケットに入れ、弁当の入った袋を下げてコンビニを出ました。
あなたはすぐに立ち止まり、ポケットに手を入れて小銭にそっと触れてみます。
小銭にはもう、ぬくもりが残っていませんでした。
――淋しいもんだな。
あなたは今日もそう思い、一人暮らしのアパートに向かって歩き始めました。




