17 弥平んちのモウと花見
春である。
村では山桜の花が咲き始めていた。
弥平んちのモウ。
今日は畑仕事もなく、朝からのんびり牛小屋で横になっていると、
「村ん衆が集まって、これから花見に行くんだ。モウも行かないか?」
弥平からお誘いがかかった。
「行く、行く」
モウは大喜びである。
「じゃあすぐに、クソのついた尻を洗うんだ。みんなで食うときはきれいでないとな」
「へい、へい」
モウは井戸端に行き、さっそくクソまみれの尻を洗い始めた。
その間。
弥平は竹籠いっぱいに、キャベツ、ピーマン、タマネギ、人参などを詰める。
それを見たモウ。
「それ、オレも食えるんかのう?」
「もちろんだ。なんたって、今日はめでてえ花見だからな」
「いいな、いいな」
モウは小おどりして喜んだ。
いつもはワラと草ばかり。いっぺんでもでいい、畑にあるものを食べてみたいと思っていたのだ。
「それでな、オマエの仲間も来るんだ」
弥平が教える。
本日の花見には、おトミさんとこのコッコ、吉兵衛さんとこのブーもやってくるという。
「楽しみだなあ」
「モウ、尻がきれいになったら、こいつを背中にしょってくれ」
弥平はそう言って、野菜の入った竹籠とふくらんだ麻袋をモウのそばに置いた。
布袋の中で何やらぶつかる音がする。
「なんだ、これ?」
「酒やらだ。花見で使うもんを、みんなで持ち寄ることになっててな」
「で、オレも酒が飲めるのか?」
「ああ、もちろんだ」
「うれしいな、うれしいな」
モウが麻袋の中をのぞく。
それには酒ビンのほかに、大きな肉切り包丁と焼き肉のタレが入っていた。
「やっぱ、オレ行かない」




