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13 最高の思い出

 父が逝って、ひと月後。

 遺品の整理をしたいという母に呼び出され、私はその手伝いにと実家へ行った。

 母にはどれにも思い出があって、自分ではなかなか捨てられない。それでいまだに、父の使っていたものが大量に残っているのだという。

「貧乏性なのよね」

 母が肩をすくめて笑う。

 私は父に似たのか、ものを処分することに抵抗感があまりない。使わないものはなるべく捨てる。

 作業は衣類の整理から始めた。父亡き今となっては一番いらないと思われるものだ。

 不要なものはかたっぱしから処分し、作業は思っていたより順調に進んだ。


 最後、父の部屋の片付けにかかる。

 父の部屋はガランとしていた。

 文机の引き出しも空っぽである。小さな段ボール箱がひとつポツンと、押入れの奥に残されてあるだけだった。

 父は捨て上手な人だったが、それにしてもあまりに少なすぎる。おそらく己の死を悟り、そのときほとんどのものを処分したのであろう。

 思い出のあまりの少なさに、

「段ボール箱、それもこんなに小さなものがたったひとつだなんて」

 母はなんとも残念そうである。

 ただ、ほとんどが捨てられたなか、これだけ残したということは、父にとってはよほどかけがえのないものだったにちがいない。

「あら?」

 母にはそれに見覚えがあるのか、なつかしそうに目を細めて中のものを取り出した。

「かわいい手紙ね」

「お母さんが出したものよ」

「へえー」

 私はびっくりして、束になった手紙の一通を手に取ってみた。

 消印を見るに、私が生まれる前の日付である。

「みんな残してくれてたなんて」

 母もおどろいている。

「ねえ。これって、もしかしてラブレター?」

「まさか」

「でも、こんなにたくさん……」

「当時は二人とも、電話を持てるような身分じゃなかったからね」

 手紙は何十通とあった。

 二人は手紙で思いのやり取りをしていたのだ。

「なんでも捨てる人だったのに」

 母が涙ぐむ。

 父が遺した最高の思い出に……。


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― 新着の感想 ―
[一言] ほっこりしました。
2024/05/25 22:16 退会済み
管理
[一言] 感動的です・・・しんみりします・・・
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