122 小さなおばさん
私がまだ幼稚園生の頃だった。
どこが悪かったのかは覚えていないが、その日、私は母親に連れられ、かかりつけの病院に行った。
診察がすんで母親が会計を待っているとき、子供の私は退屈したのか待合室のロビーを離れ、廊下の奥にあった階段のところまで行ってみた。
おそらく探検気分だったのであろう。
すると廊下からは死角になる階段の下から話し声が聞こえ、それは何やら楽しそうにおしゃべりをしている声だった。
――だれがいるんだろう?
私は好奇心から声のする方に近づき、それから階段の下にあった空間をのぞいてみた。
そこは薄暗く、モップやバケツなどの掃除用具が置かれてあり、そしてそれらの間には、二人の小さなおばさんが向き合う形で座っていた。
二人とも当時の私の背丈の半分もなく、子供の目からしても異常で、怪しい人たちだと理解できた。
二人は私に気がつくと手招きをした。
「ボクおいで、アメがあるんよ」
「ほら、アメちゃんだよ」
小さなおばさんたちはポケットからアメ玉を取り出し、僕に向けて差し出してみせた。
僕は首を横に大きく振った。それから一目散に待合室へと走って逃げた。
とにかく怖かったのだ。
そのあと母親と合流して、すごく安心したことを覚えている。
母親に小さなおばさんたちのことを話したが、もちろん信用されず、話すたびに笑われるばかりだった。
私が小さなおばさんを見たのは、そのときが最初で最後である。また大人になった今まで、その病院で子供が行方不明になるなどの話は聞いたことがない。
あの二人の小さなおばさん。
あそこで何をしていたのだろう?
ただ今にして思えば、気さくでいい人たちだったのかもしれない。