114 息子の教育
息子が幼稚園に入る。
幼稚園では友だちをいじめても、友だちからいじめられてもいけない。
「友だちの悪口を言ったり、意地悪する子は、ゴキブリのような最低なヤツなんだ」
ことあるごとに……。
いじめる子がいれば、逃げずに戦えと言い聞かせてきた。そのかいあってか、息子は正義感の強い子に育ってくれたと思う。
「きゃあー」
キッチンから妻の悲鳴が聞こえた。
「どうしたんだー」
急いでとんでいくと、キッチンのドアの前にいくつものゴキブリ退治の箱が並んでいた。
部屋から出るに出られず、
「あなた、どうにかしてよ!」
妻がオレに向かってヒステリックに叫ぶ。
「ああ、すぐに片づける」
息子がやらかしたのだ。
――なんで?
意地悪なんかしない子だと思っていたのに……。
オレは箱を片づけたあと、こっそり息子にわけを聞いてみた。
「あんなこと、どうしてやったんだ?」
「いじめるママをやっつけたんだ」
「ママにいじめられたのか?」
「パパがね」
「パパが?」
「うん、夕ごはんのとき」
息子が哀れむような目で、オレの顔をじっと見つめてくる。
――そういえば……。
夕食のときのことを思い出した。
覚えなきこと、いわれなきことで、妻にさんざんなじられた。オレはじっと我慢して、それをただ黙って聞いていたのだ。
オレは思った。
息子もいずれ恋をして結婚するだろう。
これからは男にとってもっとも必要なこと。
女の理不尽に対する我慢強さと忍耐力を身につけさせねばと……。




