1 オヤジの眼力
葬儀から二週間が過ぎた。
――そろそろ処分を始めなくては……。
オヤジは多くのものを遺しており、それらを片づける作業はかなりやっかいなものになるだろう。
なかでも骨董品のたぐい。
鉄工所を経営していたオヤジは、ひまを見つけてはあちこちの骨董市に出かけ、わけのわからぬ骨董品を買いあさっていた。しかも稼いだ金の大半をつぎこんでいたのだ。
壺に始まって、皿、茶碗、仏像、掛軸、書画などなど……数えたらきりがない。だが、大半はマガイモノでガラクタ同然である。
母の話によると、十万円で買った絵がなんの価値もなかった――ということもあったそうだ。
残念なことにオヤジには、骨董品を見る眼がまるでなかったのだ。
処分の日。
しかるべき骨董業者に来てもらった。
それで鑑定結果だが……。
やはりほとんどがニセモノで、全部あわせても三百万円たらず。使った金は、おそらくその十倍はくだらないはずだ。
「オヤジときたら、ろくに勉強もしないで骨董品なんかに手を出すからだよ」
「いいのよ、自分で稼いだお金を使ったんだから」
母さんはいささかも責めない。
「だって、母さん。オヤジが生きてるとき、なんにも買ってもらったことないんだろ。なのにオヤジ、こんなガラクタには大金をつぎこんで」
「ううん、ひとつだけあるの」
母さんが、これよ――と言って見せた薬指には、ちっぽけな指輪がはめられていた。
「ニセモノくさいな、そいつも」
「わかってるわ。でも母さんには、なによりも大切なものなのよ」
「ニセモノでも?」
「ホンモノだったからよ」
母さんがうなずいてみせる。
「どういうこと?」
「父さんの気持よ。これをくれたときはとっても貧乏でね、ごはんを食べるのもやっとだったの。そんな苦しいときに……」
当時をなつかしむように、母さんはじっと指輪を見つめている。
――オヤジのヤツ……。
どうやらオヤジは、女を選ぶ眼力だけは確かであったようだ。