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天使降臨

神は、何故持つ者と持たざる者を創造したのか?


アダムは持っていて、イヴは持っていなかったのか?


何故こんなにも単純でこんなにも致命的な違いを与えたのか?


集団生活をする動物になくてはならない重要で必須な能力。


ああ羨ましい。


ああ妬ましい。


…。




コミュ(りょく)



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「席の移動を始めろ~机はひきずんなよ~」


教室の前方から先生の声が聞こえて来た。その声を聞いたクラスメイトたちは、新たな席へと移動を始める。ガヤガヤしている騒音からは、やったー!隣だね!とか、次の席替えいつ?マジで。とか、一喜一憂する声も聞き取れる。そして、


「じゃあね~。岩井君。短い間だけどお世話になりました」


俺は隣の女子から、別れの挨拶を享受した。


「あ、ああ。こちらこそ、お世話になりました…」


すごく良い人だったなぁ。川上さん。評判通りの優しさと、可愛さだった。授業中以外にも何回か話しかけてくれたのはかなり嬉しかった。


しかし、残念ながらそれは所詮過去のこととなるのだ。川上さんと俺の仲(笑)を引き裂く強制イベント、席替え。約1ヶ月の頻度で行われるこのイベント。俺は席替えがあまり好きではない。その理由は単純明快。隣の人、または周囲の人物と仲良くなる前に別れるからだ。コミュ力満タンの陽キャには分からないだろうが、ほぼ初対面の人と仲良くなるには1ヶ月は短すぎる。最初の1週間は音沙汰無し。2週目は授業のペアワークで話せるようになるのがやっと。折り返した3週目、授業中は2人の時間。だいぶふつうに話せるようになる。運命の4週目。冗談も交えつつ話せるようになる(あくまで授業中)。はい終わり。

席替え。努力全部パー。コミュ力さえあれば最初の3日くらいで授業中以外でも話せるようになって、LINEの交換なんかも朝飯前なのだろうか。俺にはそんなの無理だ。自分から話しかけられるわけがない…。


「おーい、何してんだ真太(まなた)


「んぁっ!?あぁ、親友の鈴川暁斗(あきと)か。びっくりさせんなよ」


「いやびっくりさせようとしたんじゃないんだがというか何故フルネームなんだよ」


「気にしないでくれ。これはお約束なんだ」


鈴川は、俺の数少ない友達の中でもかなり仲が良い。俺と違って元気があって友達も多い陽キャだ。接点がなさそうな人物ではあるが、出身中学校が同じだったのもあり、高校入学早々割と話せるようになった。もちろん鈴川が話しかけてきたのだが。鈴川のお陰か男子とはだいぶ話せるようになっている。ゲームやらアニメやら共通の話題があるだけ男子とは話しやすいものだ。


「真太も早く移動しろよ。みんな新しい席に移動してるぞ」


「うそっ!ボーッとしてた…。てかお前は良いのかよ、ここにいて」


「いや俺の次の席ここだから」


「こりゃ失礼」


鈴川の邪魔だったようだ。そそくさと新しい席に移動する。次の席は確か一番廊下側の6列目だったな。うちのクラスの席替えは完全平等くじ制度だ。我ながら中々良い席を引き当てたと思う。だが、うかうかしていられない。また新たな戦い(女子との会話)が始まるのだ──



「あ!岩井君。えっと…隣になる北月舞百合(まゆり)です。よろしくね」



そこには天使がいた。マイエンジェル。小柄な体格は保護欲を掻き立てる。漆黒のミディアムヘアーは吸い込まれそうな綺麗さで。それに対をなす白い肌は汚れを知らないような純白。幼さが残る小さい童顔が、美しい笑顔でこちらに微笑みかけている。頭からは、希望も不安も全て吹っ飛び、視覚からの情報しか受け付けない。


「あ…。うん。…よ、よよろしきゅ」


かろうじて返事をするが、ほぼ会話になっていない。なにせ、岩井真太、絶賛人生初の一目惚れ中である。大目に見て欲しい。


「ど、どうしたの?大丈夫?」


「えっ!ああうんデェイジョーブ」


女子と話すときは大抵緊張する。特に可愛ければなおさらだが、今はいつもの緊張の比じゃない。心臓は和太鼓のように鳴り響き、顔はまさに茹で蛸のそれだっただろう。心配されるのも当然だ。


天使がこちらの気も知らずにさらに話しかけてきた。


「…座らないの?岩井君」


「ああ!しゅわるよ!うん」


「ふふっ…。さっきから面白いね、岩井君。どうしたの?そんなに滑舌悪くないよね?発表の時とかも」


ぐはっ!滑舌は悪くないけどコミュ力が無いのですよ。天使さん。それとさっきから岩井君って言ってるけど俺のこと知ってたんだ…。脈ありか、いやいや!そんなこと考えるのもおこがましい。それほど天使は天使なのだ(?)。


「移動終わったか~じゃあ授業の準備しろ~」


天使とのハッピータイムに先生の伸びきった声が終わりを告げた。実際これ以上は寿命が縮みそうだったので少しありがたかった。


「…岩井君…」


「な、なに?」


「…私あんまり頭よくなくて、授業中迷惑かけちゃうかもだけど、努力はするから、よろしく…ね?」


若干言いづらそうに天使が告白してきた。が、頭の良し悪しなんかどうでも良い。例え天使が鼻くそ掘ったって好きだ(たぶん)。


ちなみに俺の成績は中の上。部活に入っていないので最低限の勉強量は確保できている。お陰で高校初っ端のテストではまあまあの成績を納めることができた。


「……おっ俺で良ければ教えられるところは教えるから、きっ気にしないで」


上から目線の発言と捉えられなくもないがせっかくのチャンスなので勉強会フラグを立てておくことにした。


「あ、ありがと!岩井君、意外と優しいね」


「そっそうかな!?っ!……。そうかな?」


クールに言い直す涙ぐましい努力です。優しいなんて言われたらわけ分からなくなりますよ。そりゃ。俺が言われ慣れていないということではない。決して。




その日は、授業中、ドキドキしっぱなしだった。左隣にエンジェルが降臨しているのだから仕方ない。しかし、浮かれっぱなしだった俺は、どうせ1ヶ月たいした進展もないまま席替えに至るという何度も繰り返してきた事実を頭から放り出していた。…コミュ力欲しい。

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