普通とは違うからこその繋がりは
ふわりとした浮遊感。遮るものは何もない。足元の景色は遠のいていく。
きっと私は最初から、こんなふうにどこへだって行ける、そんな力を持っていた。ただ、自分のために使ったことがないだけで。
それに気づいた今、私はこれまでの自分から少しだけでも変わることができるだろうか。
*
休日は、人気のない場所で過ごすことが多い。
家には居場所もないし、下手に人の多いところに行けばろくな目に合わない。この夜色の目だけですぐに宵闇の迷い子であることを知られるからだ。
気になるなら隠すという手もあるが、そうまでして行きたいところがあるわけでもない。
そんな私に、ここはちょうどいい場所だった。
近所にある、人々から忘れ去られたような公園。遊具は錆びついているし、地面も雑草で荒れ放題。近くには家一つないため誰も寄りつかない。
唯一ベンチだけはその中でも比較的汚れていないが、それは私が綺麗にしたからだ。
「あれ、旅ちゃん」
草を踏み分ける音に目を向ければ、そこにいるのは流星だった。
やっほーなんて、おどけて手を振ってくる。
「なんであんたがここに来るの」
「んー、偶然だよ? ただの」
何が偶然か。この辺りにはこの公園の他に何もない。用があって来る人もいないし、ましてや町よりさらに山に近いようなここに、わざわざ来ようとなんて思う人はいないのだ。
そのことはよく知っている。ここに出入りするようになって長いのだ。これまで、通り過ぎるような人もなかった。
しかも流星は、この町に来てそう短くない。迷うということも考えられないのだ。
「後でも付けてきたの」
「偶然だってばー。半分は」
「半分?」
流星はわざとかは知らないが、こういうふうにもったいぶった言い方をする。いや、このどこか楽しそうな様子を見るに、確信犯なのだろう。
「だってほら、昨日せっかくお誘いしたのに、旅ちゃんてばボクのこと置いていっちゃうんだもん」
昨日は金曜日だったから、次の日に顔を合わせることもない。あれが質の悪い冗談だったなら、その間に引き下がるだろう。そう考えていた。結論から言えば、それは甘い見立てだったようだが。
わざとらしくぷうっと頬を膨らませた流星を、軽めに睨みつける。ちっともかわいくなんかない。
「信じきれないって言ったでしょ。覚えてないわけ」
「『信じきれてない』ってことは、少しは信用してくれてるんだ?」
一応事実ではあるので、ふいっと視線を逸らす。
「ねえ、もう一回聞くよ。ボクと一緒に旅に出ない?」
昨日と少し変わっていた。おそらくこちらがより本音に近いのだろう。
「……私を、逃がしてやるって? いい人気取りがしたいなら、余所でやってくれる」
声が自然と低くなった。今まで私を可哀想だと言い、同情してくる偽善者がわずかながらだがいた。人を勝手に不幸だと決めつけ、可哀想などと言って見下す。相手を下に見ることで、自分の方が上だと思い込みたいのだ。
そういう奴らには、宵闇の迷い子の力を見せつけてやった。例外なく誰もが恐れ、逃げ出した。
「そんなつもりないよ。ボクはいい人なんかじゃないからね。嫌だったら声に出すし、腹が立ったらやり返す。世間で言われる『いい人』なんてものは、聖人と同義語だよ」
「何が言いたいの」
「キミを、可哀想だとは思わない。同情もしない。だってキミ自身が、自分を不幸だとは思ってないからね」
共感は救いの一つにもなるかもしれないが、私に対しての「可哀想」は押し付けでしかない、と流星は言い切った。
「だからボクは誘ってるんだ。キミ自身に、聞いてるんだ」
「流星の意思で……って?」
「そうだよ。ボクがキミといたいんだ。キミとの旅はきっと、楽しいだろうなって」
ここから連れ出すのは、私を助けるわけでもなんでもなく、ただ自分が一緒にいたいと思ったからだと、彼は言うのだ。
だから私の意思も聞く。押し付けではなく、流星のわがままのようなものとして。
「……いいよ。ついていってもいい」
「じゃあ決まりだ。さ、旅ちゃん、お手をどうぞ?」
目の前に、流星の右手が差し出される。
「何、この手」
わかっていながらも、私は聞く。
「エスコートだよ。ドキドキしない?」
いつものようにおどけて、にっこり笑顔になる流星。さっきまでのたくさん人を見てきたような表情は、もうどこかへ消えている。
「全然?」
ふっと不敵に笑ってみせる。私にできる笑い方は、これがせいぜいだ。
そうして私は、流星の手をとった。