同じでも違う空
真昼の青空のように、どこまでも澄んだ色。流星のことを思い出すとき、一番に浮かぶ印象的な特徴はその瞳だ。
深い藍色をした、私たち宵闇の迷い子が持つ目とは違う。
昼と夜。対照的な青は、同じ空の色でも全然違う。
「そろそろ教えてくれない。あんたは何?」
もはやいつものことになった帰り道で、私はそう切り出した。
もし彼が本当に普通の人間ではないとしたら、最初に考えるべき可能性は宵闇の迷い子であるということだ。しかし彼は違うだろう。条件に合ってなさすぎる。
宵闇の迷い子にも、定義はある。そうでないと、誰が宵闇の迷い子であるか判断できないので当然だ。
一つ、生まれながらにして名前を持っている。
一つ、普通の両親から生まれた普通の子供が、別世界の子供と取り換えられた人間である。
一つ、闇を思わせる藍色の目をしている。
そして、まれに強い念動力を持つ者がいる。
「ボクらはね、世界を巡る一族。様々な世界を渡って、旅をしてる」
「そう」
「あ、その反応信じてないでしょ。ほんとのことなのにー」
彼の言葉はどこか遠くに離れているようで、たまに掴みどころがないのだ。真実味がないわけではない。普通の人が信じるには、あまりに遠いだけだ。
でも私は、普通じゃない。境遇も生活も。そして私自身も、異常な力を使うことができる。だから。
「別に疑ってるわけじゃない。判断材料がないのは事実だけど」
それだけの情報では、真実がそうでないか判断することもできない。私はそう言ってやった。
そのときの流星の顔はなかなかのものだった。澄んだ青が揺れて、見たことはないが海のようだと思った。目を見開いて、驚いた表情。
「はは。ほんと、旅ちゃんには興味が尽きないなぁ。そんなこと言われたのは初めてだ」
「茶化さないで」
こういうところが、彼の言葉から本当を隠しているのだろう。自覚があるのかはわからないが。
「わかったよ。あー、旅ちゃんには敵わないかも」
「いいから。早く」
できるだけそっけない言い方は避けているつもりだが、難しい。これではまるで責めているかのようだ。
「いや、あの……怒ってるわけじゃないから」
人と話すのは苦手だ。流星と話すのさえ未だ慣れない。今のところ私の話し相手など流星だけたが。
日々の積み重ねは強い刷り込みで、敵意ばかりが向けられればそんなつもりはなくとも自分も同じようになる。
「うん、知ってる。話すよ、ちゃんと」
流星がまっすぐに私を見るとき、私はいつも視線を逸らす。明るい空は眩しすぎて、私とはまったく違うのだと言われているようで。
光に照らされれば、闇は消えるしかないように。
「天見の一族は、世界を渡り歩くことで人々を見てきた。そのうちに、ちょっとした力もできたみたいだけどね」
「その、ちょっとした力って何?」
宵闇の迷い子と――私の力とはどう違うのか気になった。こういうことは珍しい。私はあまり物事に興味を示すタイプではないのだ。
「自分にできる範囲で、人の願いを叶える。もちろん、善いモノだけだけどね」
「…………」
ならば天見一族は、流星は、流れ星のような存在なのだろう。時折気まぐれに現れては、願いを叶えることがある。
それは必ずではないが、努力は報われるように『正しい』者には見返りがある。
「ここにはもう、叶えるべき願いはないんだよね。ある一つを除いては」
くるりと振り返った流星の瞳が、光にきらりと反射した。
「一つ?」
「そう。キミの願い」
私の?
そんなものに、心当たりはまったくなかった。それはどんな願いだというのだろうか。
「ここから、別の場所に行かない? ボクと二人で」