遠さと近さの彼の隠しごと
それから数日。天見 流星は毎日私に話しかけに来た。帰り道、教室移動、どれもまわりに他人がいないときだ。
要領がいいのかもしれない。もし誰かが見ていたら、彼もクラスの人に避けられることになっただろう。
彼は転校生だからという理由だけではなく、クラスの中心にい続けた。
「いつまでつきまとうつもり」
「うーん。キミがボクを友達と思ってくれるまでかな」
どこまで本気なのか。
今日も今日とて、私は天見 流星と帰り道を歩いている。突き放しても、彼は変わらずこうして隣にくるのだ。
そもそも宵闇の迷い子は、人間ではない。どこまでいってもまわりの者とは馴染めない。
私は特にその傾向が強く、人付き合いどころか、人間扱いされないことの方が多かった。
「わけわかんない。こんなことしてたら、クラスの中心になんかいられなくなるんじゃない」
「あれ? 旅ちゃん心配してくれてるの? でもね、あれ意識してやってるわけじゃないんだよね」
天見 流星いわく、気づいたらまわりに人が集まっているのだそうだ。おそらくは彼の人柄や話術だろう。ちらりとしか聞いたことがないが、何やら物珍しい話をしていた。
都市なんて場所から遠く離れたこの田舎。みんな広い世界を知っていて、そこから来た彼が眩しいのだ。
しかし一番は、彼の持つ雰囲気だ。どこか浮世離れしていて、何か普通とは違う。そこまで気づいているのはどうやら私だけのようだが、クラスの人たちもまたそこに惹かれている様子だ。
「あんたももしかして、普通の人間じゃないわけ? 天見流星」
「あ、やっぱりわかるものなんだ? 旅ちゃん、すごーい」
ぱちぱち手を叩いておどける。何がそんなに楽しいのか、彼は笑顔でいることが多い。本気だったり、愛想笑いだったり、色々だ。
「ふざけてるの」
「そんなことないよ、驚いてる。よくわかったね。それも宵闇の迷い子の力?」
「知るわけないでしょ、そんなの」
いちいち、どれが宵闇の迷い子の力なんて考えていられない。明らかにわかりやすいもの以外は、確かめようもないものだからだ。
知るつもりもない。自分がどれだけ異質かなんて、わかっている。今さらだ。
「そういえば旅ちゃんさ、ボクのことフルネームで呼ぶよね」
「だから何」
「名前で呼んでよ。なんかよそよそしいから」
確かにクラスの人たちは、あまり親しくなくても名前で呼び合っている。人数が多くないため、人同士の距離が近いのかもしれない。田舎ではよくあることだ。
「ね? 旅ちゃん」
たいして長くもない付き合いながら、彼が言い出せば聞かない質なのは思い知っていた。
でなければこんなに毎日毎日、宣言通り私につきまとっているわけがないからだ。
「……流星」
「うんうん」
満足げにうなずいた彼を、視界に入れないようにする。いつもの無表情の裏で、私はどんな顔をすればいいのかわからなかった。
「じゃない。今何気に流したでしょ」
「ん? なんのこと?」
「普通の人間じゃないってとこ」
この世界には時折、宵闇の迷い子という者たちが紛れ込む。ごく普通の人間の子供と、取り換えられて。
だから宵闇の迷い子を誰より憎むのは、たぶんその取り換え子の親だ。
居場所がないなんて、月並みな言葉を言うつもりはない。昔からそれがあたりまえで、知りようもない『普通の生活』を羨む理由はないからだ。
「ふふ、まだ秘密」
彼は人差し指を唇に当て、首を傾げる。芝居がかった仕草だ。
「はあ?」
「だってボクが話すまでは、キミはボクのことが気になってるままだよね?」