転校生と孤立事情
宵闇の迷い子たちは差別こそされるものの、普通に生活を送れる程度には人権が存在していた。
そこからの待遇や環境は、人により多少の範囲だが異なってくる。少数ながらも友人ができる者、全く他人と馴染めない者。
私はおそらく宵闇の迷い子の中でも、最悪なものなのだろう。
有り体に言うと、相手に恐れを抱くが故のいじめだ。自分より強い相手にそうして優位に立ったつもりになることで、恐れていないと思い込みたいのだ。
いちいち気にするのも面倒なので、私は無視をしていた。だが学校には一応通っている。義務教育だから、しかたがない。
私にとって学校とは、ただ授業を受けながら、時間を過ごすだけの場所だった。
そんな中学校に、転校生がやって来た。教師の紹介を生徒たちは興味津々に聞いている。
彼が珍しい容姿をしていたという理由もありそうだ。青空のような、澄みきった瞳の持ち主だったのだ。
そして私は彼に見覚えがあった。あの祭りの日に、助けてくれた人だ。後が面倒になりそうなので、表情には一切出さなかったが。
ホームルームが終わったとたん、彼は生徒たちに囲まれる。どうせ質問攻めにでもあっているのだろう。私には関係のないことだと、手元の本に視線を落とす。
「君、あの子だよね? ほら、祭りで……」
だから、彼が話しかけてきたのには正直驚いた。私が宵闇の迷い子だとわかっているはずなのに。
まわりの生徒たちも口々に「話しかけない方がいいよ」とか、「あいつ宵闇の迷い子だぜ。関わらないでおけよ」とざわめく。
「……もうすぐ授業なんだから、席に戻ったらどう」
そうとだけ、ぶっきらぼうに返す。
彼を連れ私の席から離れていくクラスメートたちは、早々にこのクラスの力関係を教えるだろう。
もし宵闇の迷い子でなくとも、クラス全員にいじめられ、教師たちにも見殺しにされている少女とは関わらない方が得策だ。彼に話しかけられるのも、これが最初で最後だろう。
何を感じるでもなく、あっという間に授業は終わり、放課後になる。いつものことだ。
掃除に参加すれば、空き教室に閉じ込められることが多い。厄介なことに、次に授業で使う時まで外に出られなくなるのだ。
そんな理由から放課後はすぐ帰るのだが、今度はそこを教師に注意される。つまり私は、体のいい八つ当たり相手なのだ。
「おーい、待ってってば。月渡ちゃん!」
振り返れば、転校生が私を追いかけてきていた。初日ということもあって、彼は掃除当番ではないらしい。
「何か用? 天見流星さん」
本当に変わった人だ。
「帰り道こっち? 一緒に行こうよ」
「なんで」
「ボクがそうしたいから」
こんな人は初めてだ。どう相手をすればいいかわからない。普通なら、こんなことにいちいち迷ったりはしないだろう。
突き放すべきだろうか。それとも……。
「改めて。ボクは天見流星、よろしく」
「月渡、旅。別によろしくしなくてもいい。できれば距離置いて」
「何か冷たいね」
私にはこれが普通だ。
あまりに人とまともな会話をすることがない上、向けられるのは敵意ばかりなのだ。こんな話し方しかできないのは、ある程度しかたのないことだろう。
「キミ、宵闇の迷い子でしょう。それもけっこう力、強いんじゃない?」
「そうだけど」
だからこれだけ避けられ、嫌われているのだ。あまり数が多くない宵闇の迷い子の中でも、さらに少ない強い力の持ち主なのだ。
「旅ちゃんって呼んでもいい?」
「何それ。意味がわかんないんだけど」
「だめかな……」
名前どころか、誰かに呼ばれたことすらあまりない。必要最低限のごくわずかな機会があるかないかだ。
「好きにすれば」
「よかった。じゃあまた明日、旅ちゃん」
「明日もこうするつもりなわけ……?」