表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

戦うのは守るため

 祭りは、どこだってあまり変わらないものなんだ。私が最初に思ったのは、そんなことだった。

 

 楽しげな人々、カラフルな屋台に賑やかな雰囲気。祭囃子ばかりは違ったけれど、ここのも悪くない。

 元の世界で、私の数少ない好きなものに祭りがあった。人混みに紛れている限り私の存在には誰も気づかないから、この夜色の目さえ隠してしまえば普通の人のようにいられた。

 普通になりたかったわけじゃないけれど、それがよかった。非日常の空気が、なんとなく心地よかった。

 

「あのステージか。よしシャル、行こうか」

「う、うんっ」

 

 十数分後。いよいよシャルの出番だった。なのに、シャルの足はがたがた震えて前に進むことができずにいた。

 たった数歩分の距離が踏み出せない。もう時間がないのに、シャルは動けない。

 

「シャル、ちょっとごめん!」

 

 思い切ってその背を押した。

 

 私は、優しくできるほど器用じゃない。

 正しさを語れるほど、きれいじゃない。

 だけどせめて、シャルの背中を押した手に想いを込める。

 

 大丈夫。シャルならできる。

 不安そうに私と流星の方を向いたシャルに、うなずいてみせる。それに応えて、シャルはきりりとした凛々しい表情を浮かべた。まさに王子にふさわしい顔だった。

 

「皆さん、こんばんは。僕はこの国の王子、シャルです」

 

 

          *

 

 

 

「き、緊張した……っ」

 

 私たちの元に来て開口一番、シャルはそう言って大きく息をついた。

 シャルのスピーチは、練習の成果も出ていてきちんとしたものだった。これまで顔を出さなかった王子に、それを聞いていた人たちの反応は好意的だった。それだけ、シャルが頑張ったということだ。

 

「かっこよかったじゃないか、シャル」

「お疲れさま」

「流星と旅ちゃんのおかげ。ありがとう」

 

 ふわりと笑ったのは、いつも通りのシャル。こっちもいいけど、さっきの顔もかっこよかったよ。

 

「ご褒美にボクが奢るよ。どこから回る?」

「見ながら決めた方がいいんじゃない?」

「えっと、じゃあ――」

 

 スピーチを終えたばかりのシャルがいれば、どこを歩いてもたちまち注目された。だけど変に囲まれることもなく、私たちはいくつもの出店をまわった。

 

「お祭りって、楽しいんだね」

 

 たくさん歩き回ったからか、頬を紅潮させたシャルがそんなことを言った。目が合った私に笑いかけるその表情は、こう言ったら何だがとても可愛らしかった。

 こうやって誰かと過ごすのも、祭りの楽しみ方の一つなんだ。祭りに来る人々は、ほとんど誰かと一緒に来ていて。その理由がよくわからなかったけど、どうしてだったのか今初めて解った。

 

 帰るのが、惜しいくらいだ。

 もう真っ暗な帰り道に、私は思った。今はこの闇を疎ましく思うこともない。

 

 私は、確かに変わった。だけど、変わらないところもある。

 

「……悪意っていうのは、どこもたいして変わらないね。バレバレだよ?」

 

 不意に足を止めた私に驚いたのか、流星とシャルもぴたりとその場に止まる。

 まっすぐ見遣るのは、闇に沈んだ暗い建物の屋根の上。気配なんてわからないけれど、その悪意だけは感じる。伊達にこれまで、悪意と敵意の中で生きてきてない。

 

「……よく気づいたな。訓練もされていない、異国の小娘が」

 

 声の主と、控えている者で二人分。向いている先から、狙いはきっとシャルだ。そして、標的ターゲットのまわりも調査するようなタイプ。

 

「くだらない言い訳はいいよ。理由ぐらいなら聞いてあげるけど?」

「大したものではないさ。シャル王子が王子としての信頼を失えば、得をする者がいるというだけのこと」

 

 この国は実力制。だけど王族や貴族が存在する。

 それはあくまで象徴としての立場だったりして、その人に実力がなければ飾りに過ぎない。簡単に言えば、実力さえあれば権力も手に入るということだ。

 どんな手段にしろここでシャルが『負け』れば、声の主である彼、あるいは彼の雇い主の実力の方が上とされてしまう。

 仮に本人の力でなくとも、従える人物が優秀なら、それは主の実力と解釈される。カリスマ性も実力の内だからだ。

 

「そんな訳だ。シャル王子には、少々痛い目にあってもらうが」

「そんなこと、させると思う?」

 

 たかが小娘が、何を言っているんだという話だろう。ただあいにく、私は普通の人間ではない。普通の人には持ち得ない力も持っているし、喧嘩をふっかけられることもあった。

 

 仕掛けてきた男は、声の主。少なくとも彼がリーダー格なのだろう。

 間合いを詰めて左手を前に突き出せば、彼の身体は私が触れるまでもなく吹き飛んだ。といってもたった数メートルだが。

 

「異国の者だけある。異質な力の持ち主だな」

 

 気づけば気配が増えていた。

 シャルはきょろきょろ辺りを見回し、流星も警戒して私とは反対側でシャルを守るように立つ。

 

 大きく息を吸って、吐く。本気を出したことがあるのは、たぶん片手で収まる数だ。

 

「『これ』がどんな力だって関係ない。……手の届く人たち守れないなんて、何のための力なの」

 

 後半は、自分に言い聞かせるように小声になった。これが守るための力なんかじゃないのは、わかってる。でも、使い方次第だ。

 想像イメージする。輪が広がる。それは敵だけ弾き飛ばす。

 

 半円を描くように動いた私の右手に従って、見えない衝撃波が敵を弾いた。

 さすがに立ち上がれずにいるリーダー格の男に、私は一歩ずつ近づいていく。持ち上げた右手に、力を集中させた。

 

「旅! 駄目っ!」

「え……」

 

 背中を、とても暖かい誰かのぬくもりが包んでいた。ふわりと耳元に触れたのは、真っ白な髪。

 

「シャ、ル……?」

「駄目だよ。旅がそんなことする必要ないんだ。大丈夫、大丈夫だから」

 

 引き際をわきまえているのか、男たちはいつのまにかいなくなっている。それでもシャルは、しばらくの間私を放さなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ