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隣を歩む距離に

 あのイカロスの話をして以来、私とシャルの関係がほんの少しずつ変わってきた。

 ただの『友人の友人』が、今では『知り合い以上友人未満』にはなった気がする。

 確証はない。私は友達という関係を知らないから。

 

「シャル、ここに図書館とか書庫ってある?」

「あ、うん。……一緒に、行く?」

「うん」

 

 私たちはぎこちないながらも、流星がいないときでも会話をするようになっていた。

 

 居たたまれないけれど、悪い気はしない。

 落ち着かないけれど、どこか安心する。

 

 これを何と呼ぶかを、私は知らない。

 

「旅ちゃんは、本、好きなの?」

「ん、本は本でも物語とかより、歴史とかの方が好き……だと思う。シャルは?」

 

 質問は会話の手段で、相手を知ることはとても大切なことだと流星に何度も言われた。

 流星と会ったばかりの頃の私は端的な返事か無視かで、たいそう苦労したらしい。

 それを聞いて一理あると思ったので、シャルと話すときは気をつけている。

 

「僕はいつも、勉強に使う資料しか読まないから……」

 

 この廊下と同じ真っ白な髪をふわふわ揺らして、シャルは答える。

 

「そっか」

 

 そこで私たちの間に沈黙が漂う。私もシャルも互いがそう長く会話できないことをわかっているから、この静けさに居心地の悪さはなかった。

 

「旅ちゃーん、シャルー」

 

 流星が来れば、それはあっというまに吹き飛ばされてしまうのだが。

 まったく、本物の太陽のようにその青空色の目を持つ彼は明るい。

 

「どこ行くんだ? ボクも交ぜてよ」

「図書室だよ」

「シャルが案内してくれてるの」

 

 口々に私たちが告げると、流星は嬉しそうにうなずいた。楽しくてしかたがないといった様子で、私とシャルの間に入る。

 おかげで、遠慮がちに空いていた私とシャルの間が埋まる。パズルの最後のピースをはめ込んだかのように。

 

「旅ちゃんはよく本読んでたよね。……こっちの文字、わかる?」

「わからないから読んでるの」

 

 そう。こちらの世界は話す言葉こそ違わなかったものの、私のいたあちらの文字とは違った。少しでも知りたいから、簡単そうな本で覚えようと思っているのだ。

 

「ふーん。教えようか?」

「……?」

「ボクはこれでも色んなところに行ってる。割と色々知ってるつもりだよ? 旅ちゃんさえよければ、ボクが文字、教えてあげるよ」

 

 天見の一族。世界を渡って旅をしているのだと、流星は言っていた。その分物を知っているし、必要に迫られて覚えたものもあるだろう。

 現に流星は学校で周囲に何の違和感も覚えさせずに振る舞っていた。前にちらりと聞いた話からするに、流星は私と同じ世界の出身ではない。それなのに、私のいた場所の文字を理解していた。つまり、それだけ知識があるということだ。

 

「り、旅ちゃん。えっと、僕も何か……力に、なりたい」

 

 断られたらどうしようと、不安げに月のような黄の瞳を揺らしながら、逸らすことはせずにシャルは私を見た。今までの私なら、裏を疑ってその手を振り払っただろう。でも、今なら。

 

「ありがとう、シャル。流星も」

 

 不器用にだけど笑ってみせる。流星のように明るく人懐っこくもないし、シャルみたいに柔らかくふんわりしたものでもない。

 だけど、前より笑顔らしい笑顔だったらいい。

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