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月の光の暖かさ

 眩しい朝陽に、私は目を覚ました。明るい白が、ここは現実だと教える。


 私は、別の世界に来ている。流星の手をとって夜空を渡り、白い国に着いた。いくらそれが突拍子のないことでも事実は事実だし、私の暮らしていた世界でも、魔法はなくとも不思議なことなんていくらでもあった。

 宵闇の迷い子――私たちの存在がその最たるものだ。


 窓から見る街並みの景色はカラフルで、見下ろす城壁とで互いをより綺麗に魅せている。

 景色一つなのに、まるで足りないところを補い合っているようで、とても縁遠いものに思える。


りょうちゃん、起きてる?」


 ノックと共に声。ドア越しに私を呼んでいるのは流星だ。

 

 昨夜、彼に頼まれるまま手伝いを了承したのは記憶に新しい。柄じゃないのは私が一番よくわかっていて、それでも、言葉では表せない何かが理由になって私は断らなかった。

 彼の期待に、応えようと思った。


「起きてる。すぐ開けるから」


 寝間着用の着替えがまるでホテルのように、部屋には用意してあった。私はその服から、元から着ていた制服に着替えた。


 ドアを開ければ、流星がいた。待っているとの返答があったから、それは当然のことなのに、誰かが私を待っているというのが初めてで、なんだか不思議な気がした。

 流星は、普通の人間にするように私に接する。困惑することは多いけれど、嫌な気分ではなかった。


「朝ご飯食べに行こうか」

「うん」


 流星はこんなに大きな城の中で、こうして行動できるほどの立場があるらしい。それとも、王子であるシャルの友人だからだろうか。



          *



 真っ白な城の床は足音をわずかに反響させ、誰かが歩けばそれが聞こえる。私と流星の足音もまた、例に漏れず鳴っていた。


 流星はそれが楽しいのか、わざと不規則だったり、リズミカルだったりする音を響かせる。

 対して私の音は、カツコツと淡々として味気ない。足音一つなのに、ここまで性格は出るものなのだろうか。


「旅ちゃんとシャルは、きっと仲良しになれると思うんだ」

「なんでよ?」

「んー、ボクの直感」


 根拠なんかどこにもないのに、流星はそれを確かなことのように語る。それとももしかして、そうなるとわかっているのだろうか。


 とん、ととん。たととん、たん。

 流星の弾む足取りは、くるくると方向を変えるのに、向かっている方は変わらない。迷わない。

 まっすぐな、まるで流星の性格のようだ。色々なことを知っているのに、彼は人を信じられる。私とは真逆だ。


 間もなく、シャルの部屋の入り口に着く。今日は私がノックをする。


「入ってもいい? あ。私は旅、流星の連れの」

「……旅、ちゃん?」


 どうやら昨日で名前を覚えてくれたらしい。ぎいいと重そうな音をたて、扉が開いた。人一人通れるほどの隙間から、この国の王子がおずおずと顔を覗かせる。


「おはよー、シャル。ちゃんと朝ごはん食べたか?」

「う、うん……」


 わずかに浮かべた笑顔は、いかにも庇護欲をそそりそうなもの。


 だが昨夜の話から考えるに、シャル自身はそれを内心ではよくないと思っているかもしれない。誰かに守られるままをよしとしていないかもしれない。

 わからない。私には想像止まりだ。


「中、どうぞ。流星、旅ちゃんも」

「お、よく言えたねシャル。いい子いい子」

「お邪魔します」


 流星がシャルの頭をなで終わるのを待って、私も中へ入る。扉を閉めようと引けばそれは意外と重く、これでは動かすのも大変だろうと考えていたら、流星とシャルも手伝ってくれた。

 たかが扉を閉めるだけなのに、一つのことを誰かとやったのは私にとって初めてのことで、よくわからない暖かいものを感じた。


 流星と出会ってから、ここに来てから、私には初めてのことも流星はあたりまえにしてくる。シャルも、引っ込み思案ながら、ほんの少しだけ笑顔を向けてくれたりする。

 私は、それに見合うだけの存在だろうか。せめて、そんな人間になりたい。彼らのために。


 私と流星をソファまで案内できたものの、そこが限界だったらしくシャルはまた昨日のように、反対側のソファの後ろに隠れた。それでも流星がした、おそらく各地の旅の土産話――私のいた学校の話もあった――に、楽しそうに頬をゆるめたりしていた。

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