莫大な報酬
カントはティシオネアの街で一躍有名人となってしまい、今後は顔を隠さなければ出歩くのも苦労する状態となっていた。
一行が人ごみをかき分けて広場へと到着すると、杖が刺さっていた場所には大きな穴が掘られているのが見えた。
「これはどうなったんですか?」
聖地の様子が一夜にして変わってしまい、カントは驚いた。
「御言葉にあるように、浄化の杖の所有権は、杖を抜いたカント殿にあると考えておりました。そこで、杖の周りにあった土だけでも教会で確保できないかと掘削を行っていたのです」
ここまでカントを案内した神官が、カントの質問に答えた。
(周りの土も信仰対象ということか。熱心なことだな)
これまで信仰対象としてきたものが急に無くなってしまえば、教会として不都合なことも出てくるのだろう。
教会は、杖が刺さっていた土も信仰の対象とみなすことで、この問題を打開するという荒業を成そうとしていたのであった。
「いままで掘ることもままならなかった土が、簡単に掘れるようになったのですよ」
見た目はただの土なのに、これまでは何故か掘り返すことが出来なかった杖の周囲の土は、杖が無くなった途端、掘削が可能となったらしい。
(それって杖に力があったということで、土はそこらのものと変わらないんじゃないのか)
カントはそんな考えを持ったが、ここで口にするのは野暮だと口を噤んだ。
かつて、この地で精霊が聖女ティシオンに伝えたとされる御言葉は数多くあるが、その中の一つに次のようなものがある。
一、利益は杖を抜いた者に与えよ。
この「利益」が一体何を指すのかは、過去の神学者の間でも大きな論争の火種となった。
通常、御言葉による精霊の指示は、実行する意味こそ不明なものが多いが、すべき内容は明瞭なものばかりである。
ところが、この御言葉はそもそも「利益」が何かがはっきりしないため、何をすればよいのかがよくわからない。
少なくとも杖を抜いたら、杖の所有権が問題となるため、この「利益」が杖を指すのだろうという意見が大勢であった。
他方で、それならば利益と書かず、杖と書けば足りる話であり、違うものも含まれているのではないかという意見もあって、ずっと論争が絶えなかったのである。
だが、杖が抜かれてから一夜、その結論が出ようとしていた。
「問題の物はこれです。杖が刺さっていた部分から出土したのです」
そう言って神官は指を指した。
その先には、穴の脇に金属光沢をもつ白い塊が置いてあった。
大きさにして一立米はある。
「これは魔金属よね」
「ええ、おそらくシロハガネと呼ばれる魔金属でしょうな。ところどころ他の魔金属も混じっているようです」
塊をよく見ると、白に混じってところどころ赤や青、黄色などでうっすらと色がついている部分がある。
「多分ですが、ヒヒイロカネ、ミスリル、オリハルコンなど十種類以上の魔金属が含まれていると思われます」
(どういうことだ?サビシロスナとかいう魔金属が原因じゃなかったのかよ)
広場にある白い魔金属の塊を見て、カントはそれがサビシロスナと呼ばれるものだと思ったのだが、神官からは違う魔金属の名前しか出てこない。
イライザから聞いた話が本当だったのか、だんだん疑わしくなってきた。
「これ、とんでもないお宝じゃないのか?」
魔金属は一グラム当たりで大金貨数百枚に匹敵する価値があると、以前にアイザック卿から教えてもらったことがあった。
「一生遊んで暮らせそうね」
「一生遊ぶどころか、ナスタリア王国の国家予算で百年分以上の価値がありますな」
神官長は、髭を扱きながら目を細めた。
途方もないことを言われてもあまりピンと来ないが、兎に角凄い。
カントには、その程度にしか理解できなかった。
「これが御言葉の真意だったのかもしれませぬ」
杖の下には、莫大な価値を持つ魔金属の塊があった。
もし御言葉が無ければ、これの所有権を巡って醜い争いが起きていたことだろう。
世の中にはそんな言葉を無視して利益を得ようとする輩など大勢いるだろうが、一定の効果は見込めるはずだ。
少なくとも、教会は権利を主張しないようである。
「金属塊は、王都へ送り届けるよう手配致しましょう」
教会にとってこの塊は、金銭的価値のみならず、宗教的価値もある代物である。
それをみすみす手放すことは、流石に惜しい様子ではあったが、神官長はカントにそう告げてくれた。
(王や大臣は何と言うだろう。また面倒事に巻き込まれた気がするな)
価値ある物が手に入ったといっても、自分の銀行口座に現金が振り込まれたのとはわけが違う。
目の前にあるお宝が自分の物になることが確定するまでは素直に喜べないカントであった。




