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誰かの思惑に巻き込まれた話(異世界転移編)  作者: 近江守
第2章 第2編ⅱ 浄化の杖
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奇蹟の力②


 

「朝から並んでたのに、もう夕方かよ」


 カントは気怠そうに、不満の声を上げた。

 杖に触れるためには、ただ順番を待つだけで良いが、杖に祈りをささげたり、引き抜こうとしたりと一人あたりの時間が短くないため、順番は一向に回ってこなかった。

 一人当たりの制限時間を設けているようであるが、流れ作業のようになるほど短いものではなく、全体的に待ち時間は押す一方だ。


 杖を前にし、感無量で泣いてる信者もいる。

 是非その信仰心でエールの一杯でもイライザに奢ってやればもっと喜びそうなものだが、そういうわけにもいかないだろう。


 順番待ちの列には、カント一人で並んでいた。

 アイリスが一緒に列に並ぶ必要はないため、今回は別行動をとることにしたのである。

 期間中は、夜間も列が途切れることはないとの情報を得ていたので、早めに列に並んだつもりでいたが、流石は聖地、カントの考えが甘かったようである。

 それでもようやくカントが杖に触れることができる順番がやってきた。


 カントは杖を前にして深呼吸すると、筋力強化の呪文を唱えた。


「【フィジカル・ストレングス】三重詠唱トリプレット!」


「三重詠唱だと?」


 近くにいた神官や観客たちは目を見開いた。

 大幅に増強された腕力で、カントは杖を全力で引き抜きにかかった。


「ぐぐぐぐぐぐぐ!!」 

 

 だが、杖は全く抜ける様子がない。


(おいおい、抜けないぞ。イライザ、話が違うじゃないか)


 イライザが教えてくれた方法とは、魔法を三重詠唱するということであった。

 大抵の人間は二重詠唱が精一杯であるため、三重詠唱をすれば抜けるだろうと教えてくれたのである。

 力が足りないからもっと力を入れればいいというだけの単純なアドバイスであって、秘策というほどのものではなかった。

 あくまで必要なのは力のみということである。


 残念なことに、イライザには見落としていたことが一つあった。

 それはカントが子供だということである。

 いくら魔法で肉体強化ができるとはいえ、基礎となる力が弱い。

 三重詠唱で朝の筋肉男などよりも強い力で引っ張っていることは間違いないが、それでも力が不足していたのであった。


 このままでは、そこまでにしろと神官から止めの声がかかってしまう。

 期間中であればまたチャレンジすることはできるが、この長蛇の列にまた並ぶのは御免である。


(仕方ねえ。無理をすることになるけど、ここからは本気だ!)


 カントは覚悟を決めた。

 今回は敵と戦っているわけではないため、魔力枯渇で気絶しても死なない程度のところで止めればそれほど危険ではないはずだ。


「【フィジカル・ストレングス】四重詠唱カルテットおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 普段あまり使わない魔法を三重詠唱で行使しているだけでも、魔力燃費は二重詠唱に比べて著しく劣る。

 これを四重詠唱という未知のレベルに引き上げた結果、カントの魔力は瞬く間に蒸散していった。

 それは体中が悲鳴を上げるという形で実感されることになる。

 カントから流出する魔力があまりにも多いため、カントは魔力のオーラを纏っているように見えていた。


(これじゃあ数秒も持たないぞ)


 そんなことを考えた時、カントの体が後方――この場合上へとずるりと少しずれた。

 次の瞬間に、カントの体は勢い余って上空へと吹っ飛んだ。

 観衆たちは何が起こったのか理解できずに一瞬その場は静まり返った。


「杖がない!あいつ、抜いたぞ!!」


 近くで見守っていた観衆の一人がそう叫ぶと、辺りはどっと歓声で沸き上がった。

 カントは魔剣の加護を得て、ゆっくりと降下し、その驚喜と熱気の渦の中心にふわりと帰着した。

 杖を握りしめた手を空高く掲げると、大聖堂前の広場は再び大きな歓声に包まれたのであった。




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