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誰かの思惑に巻き込まれた話(異世界転移編)  作者: 近江守
第2章 第2編ⅱ 浄化の杖
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南方へ

 会場に悪魔が現れたとして、騎士大会は一時中断となった。

 イライザと戦っていたカントは、王宮の一室で王と大臣から事情聴取を受けていた。


「ふむ、それでそなたはイライザが魔法武器を使用していると思ったわけじゃな」


「ええ、例の炎の魔剣の固有魔法に似た感じがしたのでそう疑ったんです。小さいものであれば剣に埋め込むこともできるのではないかと」


「だが、彼奴が残した装備からそのようなものは発見されなかった。魔法武器だけ持ち去ったのか、そもそもそんなものは無かったのか」


 大臣は、カントの言葉を遮るようにそう言った。

 イライザが身に付けていた装備や衣服は、そのまま大会の会場に残されたため、それを回収して調べてみたのだが、何の変哲もないものばかりであった。

 

「その件ですが、イライザの顔が崩れ落ちた時、体の中に何かがあるのが見えたのです。それが魔法武器ではないかと思います」


「ふむ、なるほどな。張本人が姿を消してしまっては確認の仕様がないが、あれほどの騒ぎになっては、大会を続行するわけにもいかんな」


 既に王都では、騎士大会の会場に悪魔が現れたという噂が広まっており、再び現れないという保証ができないことから再開できないでいた。


「そうじゃな。暫く延期するしかあるまい」


 王の声は、やけに重々しい。


「延期?中止ではないのですか?」


「予選で参加費用を払っている者がいるからな。中止となれば、費用の返還を求める者もいるだろう」


 騎士大会の予選は、所定の金額を治めれば誰でも参加できることになっている。

 予選参加者は、かなりの人数がおり、その費用は大会運営の費用となっているほか、王国の重要な収入源となっていた。

 その一部は既に予算に組み込まれて執行されており、それを返すとなれば国家の会計が赤字になることは免れない。

 従って、何があっても大会の勝者は決せねばならないという事情になっていたのである。

 カントとしてみれば、中止になった方が手間も減って有り難かったのだが、思うようにはならないようであった。


「大会を再開するためには、安全を確認しなければなりませんね」


「そうなのだが、その方法がな……」


 今後の見通しが立たず、大臣の表情は険しくなるばかりであった。


「そういえば、正体が知りたいなら名前がヒントになるみたいなことをイライザが言ってましたよ」


「なんと!」


「何故それを早く言わぬのだ!」


「いえ、今思い出しましたから……」


 大臣は腕組みをして、唸り声を上げた。


「ふむ、イライザ・ティシオン……ティシオンは確か聖女の名前だな」


「ティシオネアの杖について調べてみれば、何かわかるかもしれぬ」


「今度は君が遊びに来てとも言ってたな」


 カントの呟きに、王と大臣はカントを揃って見つめた後、お互いに顔を合わせて黙って頷いた。


「どうやら彼女はそなたを御指名のようじゃな」


(しまった。これは余計なことを言ってしまったな)


 カントは自ら面倒事を招いてしまったことを後悔したが、もう遅かった。

 アルザレス王は、こほんと小さく咳払いをすると、高らかに命令を下した。


「カント・シュバルツ・ヒーラギ。そなたに本件の調査を命ずる!聖地ティシオネアに赴き、イライザの正体を調査せよ」


「……仰せのままに」


 こうして、カントは王国南方の都市ティシオネアへ旅立つことが決定した。



  ※  ※  ※  ※  



 翌朝、カントとアイリスは大臣が手配したティシオネアに向かう馬車に揺られていた。


「それで、なぜアイリスまで一緒に行くことになったんだ?」


「それはこっちが聞きたいくらいよ」


 昨晩、王の使者が学園を訪れ、アイリスにもカントと同じ内容が記載された命令書が送達されたのだ。


 今回の旅は公的なものであるため、学園の実技の授業は出席扱いとなるものの、その間の勉強が出来なくなるというという事実に変わりはなく、また遅れをとってしまう。

 二人は不機嫌なまま馬車に揺られていた。


「これが貴族の宿命さだめというやつなんだろうか」


 夏が近づき、緑の活気づく街道を、二人を乗せた馬車は、ガタゴトと南下していくのであった。



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