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誰かの思惑に巻き込まれた話(異世界転移編)  作者: 近江守
第2章 第2編ⅱ 浄化の杖
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閑話【神話】浄化の杖

「はい。今日の授業は聖典の『浄化の杖』を勉強します。それでは冒頭の部分の音読を――」



◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆



『浄化の杖』


 あるところに貧しい村があり、その村は呪われた村と呼ばれていた。村人の多くは働き者であったが、どんなに食べても体はやせ細ったままで、その殆どが若いうちに命を落としていった。村に住んだ者は皆同じような末路を辿る。村に住んだことがある者が、たとえどんなに離れた地に移り住もうとも、その呪縛から逃れることはできなかった。このため、この地は周囲の村々からも忌み嫌われていた。

 村にはティシオンと言う名の娘が住んでいた。ティシオンの家はモブ麦の栽培を生業としていたが、呪いで父も母も床に伏すようになり看病に追われるようになった。

 この村にも教会があったが、村人に神を讃える者は少なかった。神に祈っても生き長らえることがないからだ。それでも死が近づき、苦しみに耐えられなくなると人々は神に祈った。そして、何故助けてくださらぬのですかと神を呪いながら死んでいくのであった。教会はいつの頃からか聖職者すら住まない空き家となってしまっていたが、ティシオンは毎日欠かさず教会へと通い、神に祈りを捧げていた。

 ある赤い満月の晩、ティシオンはいつものように教会で祈りを捧げていた。すると、いくつもの流れ星が教会へと降り注いだ。辺りは眩い光に覆われ、まるで真昼のようになった。その光は教会の中まで明るく照らしたのであった。ティシオンはあまりの眩しさに一瞬瞼を閉じたが、光が収まって再び目を開くと、目の前に精霊が浮かんでいた。精霊はティシオンに語りかけた。


 神は、汝の祈りに応え、この地の救済を約束された。

 その対価として、汝らも次のことを約束せよ。

 一、神を讃えよ。

 一、モブ麦を食べてはならない

 一、雌が角と蹄を持つ種の動物の肉や乳を口にしてはならない。

 一、満月の日に水を飲んではならない。

 一、三日続けて酒を飲んではならない。


 ティシオンが黙って頷くと、精霊は光の中へと消えていった。光が完全に消えた時、外の方で大きな音がした。


 ティシオンが表へ出ると、村中から動ける者たちが何かを取り囲むかのように集まっていた。村人たちの中心には、短い杖が突き刺さっていた。ある村人によれば、それは空から降ってきて地面に突き刺さったのだという。杖が落ちた衝撃で、地面は円形にえぐられていた。ティシオンは、これが約束の証であることを悟り、精霊の言葉を村人に伝えた。村人たちは約束を守った。

 それからというもの、不思議と呪いで死ぬ村人はいなくなった。



◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆



「はい。音読ありがとう。この杖が今もカルバキア地方の都市ティシオニアに刺さっていることを知っている人も多いと思います。聖典では寂れた村として描かれていますが、神が愛された土地として今では大きな街となりました。この杖が地面にあることで呪いの力を弱め、人々が普通に暮らせるようになっていると伝えられています。この世界にはいくつか「抜けない武器」が実在していますが、この杖もその一つで、どんな力自慢も引き抜くことはできません。いつか呪いが完全に浄化される時が来るそうで、その時には簡単に抜けると言われています」


「先生!そんなことは聖典に書かれていませんが、どうしてそんなことが分かるのですか?」


「聖典に記述はありませんが、聖女ティシオンが精霊から受け取った御詞みことばはもっと沢山あったと言われています。その一部は、ティシオネアの人々によって代々語り継がれているのです。聖典には我々が守るべきことも5つしか書かれていませんが、実はこれだけではないのですよ」


「例えばどのようなものがあるのですか?」


「杖は必要以上に人目に触れないようにしなければならないというものがあります。些細なことなので、聖典の記述から省かれてしまったのでしょうね」


「へえ、それじゃあ、食べてはいけないと言われているのに、ティシオネアではモブ麦が栽培され続けているのも、精霊の言葉と関係あるのかな」


「モブ麦は飼料用として栽培されているもので、御詞とはあまり関係はないと思います。昔の人々はモブ麦を食べる習慣があったようですが、この教えが広がってからモブ麦を食べる行為は異端として扱われるようになって――」





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