第一回戦
騎士大会の出場者は、約二万人とかなり多い。
これは、騎士の他にも名を上げたいなどの目的で参加する者が大勢いるためである。
元は王国の騎士の質の向上を目的として始まったこの大会であるが、国外からの出場者も増え、近隣諸国でも有名な剣術大会となっていた。
このため、序盤は複数の会場で数が絞られることになっている。
この大会は、魔力量に応じてシードがあり、ヒッグスとマーヤは四回戦、ジェシカは五回戦からの参加となっている。
ヒッグスとマーヤは、大会には出場しないアイリスと一緒に、観客席でカントの第一回戦を観戦していた。
「あ、カントが出てきたわよ」
カントの他に三人の選手が同時に闘技場へと登る。
「この大会、一対一のトーナメント方式ではなかったのか」
「ヒッグス、大会案内をちゃんと読まないと駄目。ルールを知らないままゲームを始めるなんて、失敗の元よ。一対一になるのは四回戦から。二万人を一対一でさばいてくと、何試合必要だと思う?時間の制約もあるから、最初は一気に削ぎ落していくのよ」
「流石父上が将軍というだけのことはある。アイリスは戦いのこととなると手厳しいな。某、自分が参加する四回戦以降の部分しか読んでいなかった故……。それで何試合必要なのだ?」
「ええとそれは……」
アイリスは自分で話を振っておきながら答えは分からなかった。
「ところで、カント君は何故一回戦から出場しているのかしら?シードの申請をすれば良かったのに」
アイリスが答えに窮しているのを察してマーヤは話題を変えた。
「何故かしらね」
実は昨日、シード申請の手続きがあり、カントは審査会場に赴いていた。
シードは魔力量に応じてその可否を判定されるため、魔力を測定しなければならなかったのだが、会場に用意されていたのは、あの計測玉であった。
カントは以前にも計測玉を壊したことがある。
今回も同じ結果を招くことになるのは容易に想定できた。
公共の場で同じことをやってしまうと、不特定多数の目に晒されることになるため、色々と不都合なことが多かった。
本来であればジェシカと同じ五回戦シードが確実であったはずだが、これを諦め、不本意ながらも一回戦からの出場としたのであった。
アイリスは、何も知らないことを装っていたが、実はこの事情をカントから聞いており、事情を知っていた。
「後でカントに聞いてみたらどうかしら。あ、そろそろ始まるみたいよ」
※ ※ ※ ※
「へへへ、最初の獲物は決まったな」
三人の男の視線は、カントに向けられていた。
選手は試合ごとに、正方形の闘技場の各頂点に一人ずつ登壇する。
このため、そこで初めて対戦相手と顔を合わせることになる。
男たちが闘技場に登り、それぞれが自分の対戦相手を確認すると、二人は鎧に身を包んだ屈強な戦士であったが、もう一人は弱そうな少年であった。
少年は剣だけは立派なものを持っていたが、鎧も身に付けていないようで全く話にならない。
これが三回戦以上であれば魔法による強化を気にしなければならないとこであるが、今は一回戦である。
つまり、シードを受けるほどの魔力を有していないただの子供が、鎧もなしに試合に参加しているということになる。
どうせ下級貴族の子供が名を上げるために、剣だけ用意して参加したといったところだろう。
世の中の厳しさを教えるために、痛い目に遭わせてやろう。
三人ともがカントを見てそう思ったのであった。
四人が剣を構えたところで、試合開始のゴングが鳴った。
「クソ餓鬼!覚悟しろ!」
「死ねや!」
「オラオラ!」
開始早々、三人がカントの方へと駆け寄っていく。
まず、男の一人が剣でカントの剣を払う。
すると、その衝撃で剣は手からすぽりと抜けて場外へと飛んでいった。
飛んで行ったのは、カントの剣ではなく、男の剣の方である。
それは、岩のように硬くて動かないものに剣を振り下ろした時のような感触であった。
男は何が起こったのか状況を理解できずにいた。
一方、カントの剣は、微動だにしていなかった。
「へへ、雑魚は餓鬼だけじゃなかったようだな」
別の男がその様子を見て笑った。
その男も剣を振るい、カントを切りつけた。
こちらも、想像していた感触とは異なる、硬いものに当たったような衝撃を受けたため、手がビリビリと痺れた。
カントの衣服には切り込みすら入っておらず、むしろダメージを受けたのは剣の刃先の方である。
最後の男は、この様子を見て身構えた。
だが、気が付くのが遅かった。
カントは、男の剣に向けて一閃すると、刀身は鋭利な切り口を残してポロリと地面に落ちた。
恐怖で強張って動けなくなった三人を見てカントが呟いた。
「俺も鎧欲しいなあ」
試合開始早々、終了を告げるゴングが鳴り、試合はあっけなく終了した。
※ ※ ※ ※
「カントは【フィジック・インフォース】を唱えたようだな」
「しかも二重詠唱ね。でもそれだけじゃないような気がするけど」
「……」
この世界の人間ではできないような魔法の使い方をカントがしているような気がしたアイリスは、ひたすら沈黙を保っていた。
「これなら、三回戦までは楽勝ね」
「ああ、そうだな。某も戦うのが楽しみになってきた。ところでアイリス、話は戻るが何試合必要なのだ?」
「……」
アイリスは、頑なに沈黙を保ったままであった
19,999試合必要です。




