アイザックの憂鬱
短いです。
食事中ということもあって、完人は元いた世界の食料事情について、アイザックに説明する流れとなっていた。
「すると、君の世界では季節に関係なく、農作物を収穫できる技術があるということかい?」
「そういうことです。暑い時期にしか取れない作物が年中手に入る場合もあります」
「そうか。すると、今日の食事は完人君の口には合わなかったかもしれないね」
事実そうだった。
出されたのは、保存のために塩漬けにされたとみられる肉を使った塩辛いステーキ、あとはパンとスープである。
今は冬場なので、みずみずしい野菜は食卓に上ることはないらしく、物流もそれほど発達していないせいか、食事に使われている食品の種類はカントが普段食べていたコンビニ弁当の方が多かった。
「こうして食べさせていただいているだけでも有り難いと思ってますよ」
「それならいいんだがね。君の場合は、その知識だけでも十分稼いでいけそうな気がするよ。これからは、あまり人に教えない方がいいかもしれない。私も異世界から来た人間の話は、聖典でしか読んだことがないからね」
「余計なトラブルを避けるためにも、異世界から来たことはできる限り人に教えないようにしていこうかと思います」
「それがいい」
そう言いながらも、アイザックは自動車に興味があったらしく、完人は色々と詳しく説明する羽目になったのである。
※ ※ ※ ※
食事の後、アイザックは自室に戻り、先ほど壊れた計測玉を手で転がしながら考え事をしていた。
玉はまだ光る機能を完全には失っておらず、アイザックの魔力を受け、僅かな光を放ちながら、手の中で踊っていた。
計測玉は、文字どおり人の魔力量を計測するための道具である。
従って、これらを使って万人が魔力量の概算を測れるようにその規格が定められている。
魔力量が正確に示されるのは、光が発光晶の長い部分(長針)と短い部分(短針)収まっている時であり、ここに収まっていない場合には、玉の選択が不適当であるということになる。
即ち、どんな人間が上級玉を握っても、光は発光晶の長針の内側に収まるということになる。
そのように作られているのである。
この世界で魔力量が一番多いものであっても、長針と短針の中間よりも少し外側に光が届く程度である。
少なくとも、これまではそうだった。
それをあの少年はいとも簡単に壊してしまった。
アイザックやアイリスのような上級玉を光らせる魔力量をもってすれば、この大きな屋敷など簡単に消し飛ばすことができる。
(完人の潜在魔力量はまだ不明だが、王都を容易く吹き飛ばしてしまうぐらいの力があるかもしれない)
アイザックは、とある神話が頭に浮かんでいた。
この国に伝わる神話で、聖典にも載っており、国が一日にして滅んだという内容の話がある。
一人の天使が王都を滅ぼしてしまうというものだ。
その天使の身体的特徴はあまり詳しくは語られていないのだが、確か黒髪ではなかったか。
神話が成立当時からそのまま伝わっているとも限らない。
そのほとんどは宗教的な色付けがされ、事実がそのまま伝わっていることなどあり得ないと言っても良い。
アイザックは、当初、完人が神の使い「天使」である可能性も疑っていた。
しかし、完人の話を聞く限り、彼は本当に異世界から来たというだけであるようだ。
ただ、彼が異世界人と天使のどちらであろうと、今はあまり重要なことではない。
「天使」とされるその人物が異世界から人物であったとしても、あの神話にあるような災害が起こりうるのではないか。
アイザックにはそんな考えが頭を過ったのだった。




