鬼に金棒
異常なまでの戦闘能力を持つ鬼と、力ある者を選びさらなる力を貸し与える魔剣――最悪の組合せであった。
(鬼に魔剣か。)
鬼に金棒という諺さながらの状況にカントは置かれていた。
カントは、腰の魔剣を引き抜いて構えた。
名も無き魔剣、通称「最後の魔剣」と呼ばれるそれは、桜色の刀身を現し、太陽の光を受けてキラキラと輝いて見えた。
カントは、この魔剣を構えると起こる体内の魔力の不均衡をいまだに解消できていない。
それでも今はこの剣に頼らざるを得なかった。
「ほう、それも魔剣ではないのか?」
朱色の鬼は、カントの持つ魔剣を見て目を細めた。
こちらへと向かってきたその他の鬼たちも、一瞬ピタリと足を止めた。
「ああ、そうだな。あまり人前で披露したくはなかったんだがな。お目当ての物が一本足りなかっただろう?」
「そういうことか。それも回収しなければならんな」
朱色の鬼は笑った。
「勝負といこうじゃないか」
土属性固有魔法【地割】
朱色の鬼が、右手の魔剣を地面に突き刺すと、地面が裂けていく。
まるで刃物で切り落としたかのような断面が現れた。
カントはそれを素早く避けたが、その後ろでは地面の上にある木々や城壁もろとも切断されていった。
切断により支えを失った枝や石垣はそのまま地面へと落下し、大きな衝撃音を上げた。
それをカントは鼻で笑った。
「ふん。地味だな。この程度なら自力でできるんじゃないのか?それでは俺を殺ることはできんぞ」
「だったらこちらはどうだ?」
カントの挑発に、朱色の鬼は左手に持っていた魔剣で空を切った。
風属性固有魔法【竜巻】
たちまち目の前に竜巻が発生し、カントを襲った。
「うわっ」
カントは竜巻に巻き込まれぐるぐると回転しながら天高く舞い上がり、城外彼方へと飛ばされていった。
「思いのほか遠くへと飛んだな。それほどの衝撃を受けてはあいつも即死だろう」
「ああ、素晴らしい威力だ。これなら奴らに太刀打ちできるかもしれん」
「追うぞ!あの魔剣も回収するんだ」
「「「おう」」」
鬼たちは、カントを追いかけ、王城から去っていった。
※ ※ ※ ※
鬼たちは俊足を生かし、黒髪の少年を追いかけていた。
「あとは俺一人で十分だろう。先に目的地に向かえ」
「おう。ゴルド、後は任せたぞ」
朱色の肌を持つ鬼ゴルドは一人だけ集団から別れ、少年の方へと向かっていった。
空高く舞い上げられた後、竜巻の外へと放り出された少年の身は、次第に高度を下げていく。
随分と郊外まで出たようで辺りは閑散としていた。
王都エン・ナスタルの中でも自然が残されている区域である。
「あそこに落ちるな」
ゴルドの行く手で、少年が地面に到達するのが見えた。
予想では、少年の体は地面に叩きつけられるはずであったが、意外にも両足で見事な着地をして見せた。
少年は、特にダメージを受けた様子もなく、ゴルドが向かってくる様子を見て、不敵にも笑ってみせた。
「何がおかしい」
落下地点へと駆け寄ったゴルドは、少年に問いかけた。
「思った以上にうまくいったからさ。相手が一人になるのは想定外だったがな」
少年は、満足したというようににんまりと笑みを見せる。
ゴルドは騙されたと気づいて、眉間に皺を寄せた。
どういうからくりなのか不明であるが、自分が使った竜巻】を利用して人気がない場所まで誘導されたということであろう。
「利用されたというわけだな。だが、それでもお前も無傷というわけにはいかないだろう」
「生憎、そうでもないんだ。この魔剣が俺の味方だからな」
少年は、ピョンピョンと飛び跳ね、ケガなどで肢体に不自由がないことをアピールしてみせた。
「さて、そろそろ始めよう。俺は傷は受けていないが、この剣は持っているだけでもつらいんだ」
少年が空高く剣を突き立てると、爆発が一帯を包んだ。
火・木・火連結固有魔法【爆燃】
熱球が地上で半円球型となり、大地の上を膨張していった。
膨張の過程で砂煙を巻き上げたため、遠方からは一瞬にしてドームが膨張したように見えた。
「うぐぅ」
熱の伝播にゴルドの体表はピリピリと火傷の痛みに襲われた。
上級鬼である自分にとって、この攻撃魔法がそれほどダメージを与えるものではなく、それもすぐに回復してしまうであろうこともすぐ自覚する。
こんな攻撃では自分をどうすることもできないだろうと思考を巡らしているうちに、少年が目の前にいた。
脇腹から胸の方へと斜め上に、手にした魔剣で少年が一閃するとゴルドに新たな痛みが加えられた。
ゴルドも攻撃を試みるが、少年はすぐに砂煙に身を隠し攻撃を免れてしまった。
魔剣の力とみられる追加効果で、切られた部分に熱が加えられる。
本来の切り口からさらに火傷が生じることで、傷周りの損傷をさらに大きくした。
いくら鬼の回復力が人間に優るとはいえ、血肉まで無限というわけではない。
同様の攻撃を何回も受ければ、流石に上級鬼とはいえども無事では済まないのである。
(一刻も早くあの少年を倒す)
ゴルドはそう決意する。
次第に砂煙が収まり視界が晴れてきた。
この状況であれば、速く動けるゴルドが有利となる。
ゴルドは少年の背後を取り、鬼道によりエネルギー弾を作り出し投げつけた。
しかし、少年の手前に炎の壁が生じて、それは少年に届くことなくかき消された。
おそらく、これも魔剣の力であろう。
その後もゴルドは数々の攻撃を繰り出したが、炎によるガードが少年を守り、攻撃が決定打とはならなかった。
(なんという厄介な魔剣だ)
ゴルドの知るところによれは、王家には魔剣かもわからない宝剣が古くから伝わっており、それが本当に魔剣であるかの真偽を確かめることができなかったという。
この理由から、剣は性能不明となっていた。
今回ゴルドたちが王城を襲撃した際、宝物庫に見当たらなかったのがその一本だけであったため、何の問題なく撤収した。
所在不明の一本がそれで良かったと思ったほどである。
今、その無くても良いと思った一本にゴルドは苦しめられていた。
火属性固有魔法【熱線】
少年が突き出した魔剣の先から、一筋の赤い光線が発射された。
(まだ他に固有魔法があったのか)
幸いゴルドは光線の軌道を読めたため、少し体を横にずらしてそれを避けた。
「紙一重で避けると死ぬよ」
避けてから言われても遅かった。
光線は熱の塊であったため、攻撃の実効範囲は見えている部分よりも外側にあったのだ。
「ぎゃあ」
直撃はしなかったものの、ダメージはかなり大きかった。
ゴルドは、右の二の腕に大やけどを負い、悲鳴を上げて持っていた魔剣を放り出した。
若緑色の魔剣は宙を舞い、硬質の刀身はそのまま、岩盤の地面へと突き刺さった。
少年は空いた左手でその魔剣を引き抜く。
「まず一本目だな」
そう呟いた直後、少年の動きが一瞬止まった。
その日、ナスタリア王国首都エン・ナスタルの荒野が広がる地域に、炎の竜巻が観測されたという。




