小さな仕返し
ようやく学園長との面談が終わり、カントは質問攻めから解放された。
もう日が暮れようとしていた。
カントは一人寮の自室へと戻る途中、ナターシャとポールを引き連れたジェシカに出会った。
「あら、カント。ごきげんよう」
ジェシカは、心なしか意気消沈しているように見えた。
カントは、昨日自分が彼女の魔剣を使って余計なことをしてしまったことが原因なのだろうと悟った。
いつも強い意志を感じさせる瞳に覇気が感じられなかった。
「よう、調子はどうだ?」
「貴方が言いつけを守らず基本魔法を暴発するものだから、ジェシカ様は昨日から御気分が優れないのよ」
「平民が調子に乗って余計なことをするから、いい迷惑だな」
普段なら腹を立てるカントであったが、今回、面向きはカントが悪いことになっているのだからと、その責めをぐっと飲み込んだ。
大金貨450枚の損害を与えた張本人であることもその心境を下支えしている。
(ただ、事情を知っているジェシカには擁護して欲しかったんだけどな)
そんなことを思ってみるが、無理を言って剣を持ったのは自分の責任である。
今回ばかりは、ジェシカにも怒りが湧かず、あまり気にもならなかった。
「ジェシカ、今回は俺が悪かった。許して欲しい」
落とし前はつける必要がある。
カントは潔く謝った。
「まあ、ジェシカ様を呼び捨てで!」
「平民のくせになんという無礼を!」
先に声を掛けてきたはずのジェシカはカントとあまり会話したくなかったのか、なぜか無言のままであったが、その他の二人が激高していた。
とりあえず言えることがあれば言っておきたい。
そんな差し迫った勢いを感じる取り巻きたちである。
(こんな奴らが近くにいて疲れそうだが、よくジェシカは平気でいられるな)
カントがそんなことを思っていると、ようやくジェシカは口を開いた。
「いいのよ。気にしないで」
ジェシカの視線は、学園長から受け取った魔剣に向けられていた。
「それはそうと、その剣は何かしら」
(折角こちらが気を使っているのに、俺には全く興味なしなんだな)
「手に取って見てみるか?」
僅かに苛立ちを覚えながらも、カントは答えを聞く前に魔剣を差し出し、ジェシカに手渡した。
ジェシカは、受け取った魔剣を鞘から引き抜こうとする。
「あれ、抜けないわね」
力任せに引っ張ってみるが、それでも剣が鞘から抜けることはなかった。
「ジェシカ様、私に貸してください。・・・あれ?私にも無理だわ」
「俺に貸してみろ。ぐっ・・・俺も無理だ」
ナターシャもポールも、魔剣を引き抜こうとするが抜けなかった。
(誰にも抜けないというのは本当だったんだな)
カントは、改めてその事実を実感した。
「実はな。それは、飾りなんだ」
カントが笑いながらそう説明すると、三人は化かされたような顔をした。
「この前、お前にさんざん剣を馬鹿にされたからな。大枚を叩いて買ってみたのさ。どうだ?まんまと騙されただろう?」
カントは、ナターシャに向かって嘲笑するような素振りを見せた。
「やっぱり、平民は考えることがくだらないのね。呆れて笑う気にもなれないわ」
ナターシャはそう言って強がって見せた。
ナターシャのその言葉を聞いて、後ろでニヤニヤしていたポールは、慌てて顔を引き締めた。
(こいつらに本当のことを話すわけにもいかないからな)
これが、魔剣だという説明をするとなると、カントの魔力など色々と説明しなければならない。
それをするくらいなら、笑わせておいた方がましだと考えた上での行動であった。
これで、カントが何もしなくても、この剣がただの飾りであると噂は勝手に広がっていくことだろう。
これからも、カントが帯刀していれば同じように剣に興味を持つ者が出てくるだろう。
予め噂を流しておけば一々説明する手間が省けるというものである。
(それに、前回の仕返しが少しはできたしな)
たとえ、自ら騎士であることを隠しているとしても、カントも一方的にやられているというわけにはいかない。
先日、アイリスに贈られた騎士の剣を散々馬鹿にされた借りは、少しだけだが返すことができたようだ。
相手が相手だけに、気に病む必要がない。
カントは満足した顔で寮へと戻っていった。




