表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰かの思惑に巻き込まれた話(異世界転移編)  作者: 近江守
第1章 異世界に飛ばされて
4/122

溢れだした魔力

正直、完人君にはさっさと魔法が使えるようになって欲しいと思ってます。

 盗賊たちはひとまず、木に縛り付けておくおことにし、一行はトルンスタント侯爵邸へと向かうことにした。


 先ほどのジェシカの言葉が、完人の頭の中で何度も反芻されていた。


「俺の対応がまずかったのか?」


「いや、完人は悪くないよ。でも、貴族にはああいう考えの人が多いってことは覚えておいて。きっとこれからも同じような思いをすることになるわ」


「そうか。これから先も道のりは平坦ではなさそうだな。アイリスの親父さんはそういうタイプなのか?」


「御父様はそんな差別はしないと思うわ。将軍だから平民出身の兵士もたくさん面倒見ているし」


「なるほどな。それは良かった。あと、あのジェシカという子はどこの御令嬢なんだ?」


「ジェシカは、ヨハン・デューク・ド・タイタニアの第一令嬢よ。タイタニア公爵領は、トルンスタント領の隣にあるの。公爵継承候補の筆頭だと聞いてるわ」


「へえ、女でも称号が得られるのか。俺の知ってる制度だと、男が主体なんだけど」


「そうね。この国の制度はこの世界でも珍しいかもしれないわ」


(ジェシカ・ド・タイタニア――あれが公爵デュークになるようでは、この国も心配だな。まあ二度と会うこともないだろうけど)



  ※  ※  ※  ※  



 そんなやりとりをしているうちに、馬車はトルンスタント侯爵邸に到着した。


「ここがアイリスの家か。改めて思ったけど、貴族って凄いんだな」


 目の前には庭園が、その遥か先には大きな屋敷が身構えていた。

 見えているそれは、まだ見ぬアイザック・マーキス・ド・トルンスタント―――アイリスの父親の本拠地となる邸宅である。


「何?疑ってたの?」


 庭園の中央を通る屋敷への道を通過する馬車の中で、アイリスはカントに不機嫌そうな眼差しを向けた。


「いや、俺がいた国では貴族なんて制度がないからな。話の中でしか聞いたことがなかったけど、聞くのと実際に見るのでは、全然違うなと思ったんだ」


「そう。それなら別にいいけど」


 邸宅の玄関前に馬車が停車した。いつの間にかメイドが2人並んで出迎えていた。


「お父様はいらっしゃるかしら」


「はい。執務室にて、仕事をされております」


「そう。完人、お父様を呼んでくるから、暫く待ってて頂戴。エリ、この方を応接室に案内して」


「かしこまりました」


 完人は、エリと呼ばれたメイドに案内され、屋敷内の一室に通された。

 壁には絵画が掛けられ、壺も置いてある。

 完人は美術的センスに疎いが、きっとどれも高級な品物なのだろう。

 床に敷かれたふかふかの厚い絨毯の上を歩き、ソファーに身を委ねると、その身は深く沈みこんだ。


 しばらく部屋で待っていると、アイリスが口ひげを生やした男性を引き連れてやってきた。


「彼が完人よ」


「初めまして。私がこの屋敷の主アイザック・マーキス・ド・トルンスタントだ」


「お会いできて光栄です。柊完人です」


「娘から聞いた話だと、君は異世界から来たらしいね」


 口ひげを2本の指で弄りながら、アイザックは尋ねた。


「ええ、その通りです。ただ、それを示す証拠はありませんが」


「ははは、確かに君はただの不審者だ。しかし、これも何かの縁だ。この国には旅人に優しくせよという教えもある。しばらくの間この屋敷に滞在することを許可しよう。その間にこの世界で生活する目途をつけてくれたまえ。ただし、屋敷内で不審な行動をとらないように気を付けてくれよ」


「わかりました。ありがとうございます」


「私は、また執務室に戻って仕事を片付けないといけないが、今日の夕食を一緒にどうだい?まだ色々と聞きたいこともあるしね」


「喜んでご馳走になります」


 貴族のディナーと聞いただけで心が躍るようである。


 (しばらく、コンビニ弁当が続いていたからな)


「それは良かった。楽しみにしているよ。それじゃあまた後で」



  ※  ※  ※  ※  



「完人の魔力を測ってみようよ」


アイザックが退出したところで、アイリスはそう切りだした。


「それって簡単にできるの?」


「うん。ハウンド、玉をここに」


「はっ」


 ハウンドが小箱をテーブルの上に置いた。

 どうやらアイリスがハウンドに言って準備させておいたらしい。

 アイリスがその蓋を開ける。

 そこには、3つの透明な玉が並んでいた。

 それぞれの玉の中には結晶のようなものが見える。


「これが計測玉よ。魔力量に応じて光るの」


「そのままの名前なんだな」


「まあね。ええと、間違えないようにしないと・・・」


「左側の玉です。お嬢様」


 アイリスは、白手袋をはめた右手で他の玉に触れないように、3本の指で慎重に玉を取り出した。


「これが上級玉ね。これをこうやって握るとね・・・」


 アイリスがその玉を素手のままの左手に移して握ると、玉は青白く光を放ち始めた。


「よく見て、光は玉の中心から出るんだけど、中の結晶の短い方の先まで光が届いているでしょう?」


 玉の結晶をよく見ると、中心から突き出ているものは、短いものと長いものの2種類があることがわかった。

 光は短い方の少し外側まで届いていた。


「この短いやつよりも外側まで光が届けば上級なの。私も上級ってことね。魔力量が多いければ多いほど外側まで光るのよ」


「通常、魔力量まで人に明かすようなことはあまり致しません。完人様も、このことは決して口外されませんようお願いしますぞ」


 ハウンドは、厳しい顔をして完人に言った。

 要は個人情報と言うやつだ。

 特に貴族は、魔力量を特定されると不都合なことも生じるのだろう。


「私は完人を信用しているからいいのよ」


 アイリスがフォローする。


「俺は口が堅いから大丈夫だよ」


「出過ぎた真似を致しました」


「話が逸れたわね」


 アイリスは話を続けた。


「中級玉や下級玉は、これよりも光り易くできてるの。私が他の玉で同じことをやったら目がくらんでしまうわ。だからね、魔力量がわからない内は、みんな上級玉から始めるの。普通は光りもしないらしいけどね。」


 この世界では、人は少なからず魔力を持っており、生きているうちに何回か魔力を計測するらしい。

 魔力は年を重ねるごとに増加する傾向があるらしいが、魔術官任用の基準となるのは中級以上の魔力である。

 成人した段階でこの基準を満たせる者は、10人に1人程度だということだ。 官職の多くが貴族であるのは、貴族が魔力に優れた家系であることに由来しているのだという。


「じゃあこれを握ってみて。反応しなくてもがっかりしないでね」


 そう言って玉を完人に手渡すアイリス。


(玉が光らなくてがっかりしない奴なんているのだろうか。初めての計測なら絶対期待するよな。期待するなと言う方が無理だ)


 そんな思いが、一瞬完人の頭を過る。

 手渡された玉が完人の手の平に乗った瞬間、玉は爛々と輝きだした。

 想定外の事態にアイリスは焦った。


「あ、あれ、完人ちょっと待っ―――」


 完人は、玉が手渡された瞬間から、それを握りしめる動作に入っており、既にその声を認識する前に握りしめてしまっていた。

 次の瞬間、激しい閃光が部屋の中を白く染め上げた。

 その夜、窓から漏れた光は、一瞬ではあったが、遠方の村からも確認できたという。


「てええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」


 光に包まれたその部屋の中で、「待って」と言おうとしたアイリスの奇妙な甲高い叫び声が響いた。


「熱っ!」


 完人は、その目が眩む光にも当然驚いたが、手の中で急速に熱を帯びたそれを反射的に投げ捨てた。

 先ほどアイリスが握った後、玉が暫く光っていたように、玉は手から放してもすぐに光が収まるわけではない。

 その光が収まるまでに10秒ほどを要した。


「どうした!」


 アイリスの悲鳴を聞きつけ、アイザックが従者を引き連れ、部屋に駆け込んできた。

 その一方で、部屋にいた3人は、目が眩んでしまってそれどころではなかった。


「それが・・・完人様の魔力を測定しようとしたところ、上級玉が激しく光りまして・・・」


 ハウンドが目頭を押さえながらも、聞こえたその声が主人のものであると分かり、なんとか説明する。


「上級玉が?・・・これか」


 アイザックは完人の足元に転がっていたそれを拾い上げた。

 玉は数か所のひびが入っており、まだほんのりと熱を帯びていた。

 床の絨毯には、少し焦げたような形跡もあった。


「ふむ」


 アイザックは、玉を透かして中を伺った。


「中の発光晶が溶けてしまっているね」


 アイザックは、これまでにも同じような現象を見たことがあった。

 特に珍しいことではない。

 それは、魔力上級者が中級玉や下級玉を握った時に起こる現象だったのだ。

 計測玉は、それぞれ既定の魔力量に反応して光るように製造されており、過剰な魔力が流れ込むと壊れてしまう。

 中級玉や下級玉は、上級玉よりも光り易い仕様になっているため、上級玉を光らせることができなかった者が次に中級玉を握り、それでも光らなかった者が下級玉を握るというのが一般的な魔力計測の流れなのである。

 従って、上級者が上級玉以外を握ると今回のようなことが起こる。

 特に下級玉は、魔力感度が非常に高いため、このような事故は珍しくなかった。

 

 不幸な事故とはいえ、計測玉は安くない。

 一度中が焼けてしまえば、二度と使えなくなるので、公用の計測玉を壊してしまうと確実に始末書ものだ。

 トルンスタント領内でも、年に少なくとも数件はこのような事故が起こり、アイザックはその報告書とその計測玉の管理担当者の反省文に目を通していたのだった。


 アイザックはテーブルの上に残された2つの玉をじっと眺める。

 残された玉が中級玉と下級玉で間違いないことは容易に確認できた。

 つまり、この壊れた玉は上級玉であることは間違いない。

 アイザックが知る限り上級玉がこのように「焼けた」という話は聞いたことがない。


「・・・とりあえず、夕食にしようか」


 アイザックは2人に笑いかけた。


 アイリス、完人に続いてアイザックやその他の従者たちも食堂へと向かう。

 アイザックは、目の前を愛娘と並んで歩く少年に目をやる。

 この上級玉を壊した少年は一体何者なのか。

 異世界から来たという話も嘘ではないように思えてくる。


(いや、もし嘘なのだとするとそれは・・・)


 いつも微笑を浮かべているアイザックだったが、この時ばかりは顔から笑みが消えていた。

後からですが、次話との間に間話をいれるかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ