学園長との面談
カントは、アリッサに学園長室に呼び出されていた。
「昨日のことは後で話すとして、まずカント君にこれを渡しておくわ」
アリッサは、王から預かった魔剣をカントの前に置いた。
「王立研究院で分析するはずになっていた魔剣だけど、貴方がいないと勝手に鞘に収まってしまうようなの。ということで検証は学園内で行うことになったわ」
「はあ、そうなんですか。この前はすぐに手から放してしまいましたが、持ってみれば・・・何かわかるかな」
カントはナイフを鞘から抜いて暫く手に持ってみるが、突然慌てた様子でナイフを再び机の上に置いた。
「どうしたの?」
アリッサは、カントの行動を不思議に思って問質す。
「この前もそうだったんですが、魔剣を持つと体中の魔力が躍り出すっていうですかね?妙な高揚感に襲われるんですよ。こんな時に固有魔法が使えると分かると使いたくなってしまって」
確かに、魔法武器を手にすると、その力に誘われてか体中を魔力が駆け巡るような感覚になり軽い興奮状態となる。
このことは、アリッサも身をもって体験していた。
カントは、尋常ではない魔力を持っているというが、その魔力で同じようなことが起こったらどうなるのだろう。
演習の時間には、カントが剣を手にした次の瞬間には魔剣の固有魔法を暴発させていた。
アリッサは、カントがなぜ魔法を使う気になったのかずっと疑問に思っていたが、ようやくその答えがわかった。
「いわゆる、魔法武器に取り憑かれるという状態よ。使用する固有魔法によっては周りにも被害が及ぶわ」
魔法武器に人格が支配されるというようなことはないと考えて良い。
それでも、カントが膨大な魔力に煽られトランス状態となっている時に、魔剣から固有魔法が使えると知らされたら、それは悪魔の囁き以外の何物でもない。
「魔力制御ができるようになるまで、基本魔法と同様に魔剣の使用は控えなさい」
アリッサは、カントが再び暴走しないよう念押しした。
聖典には、英雄と呼ばれた男が呪われた斧に取り憑かれ、自らの国を滅ぼした話がある。
アリッサは、取り憑かれるという現象を実際に聞いたことはなく、そんなものは御伽噺の中の話だと思ってきた。
しかし、このイレギュラーな少年が言うことを目の当たりにすると、作り話のような話も本当は実話に基づいているのではないかと思えてくるのである。
川は少し流量が増えても水位が上がるだけであるが、極端な増加をすれば氾濫という別の事象を引き起こす。
この少年の魔力量が多いということをこれまでの常識で測っていては、いつか取り返しのつかない災害にも繋がりかねない。
それくらいの覚悟がなければ、この少年に教育することは不可能なのだと認識したのであった。
「その魔剣は、王女護衛隊の証なんでしょう?鞘から抜くことは禁止だけど、常時帯刀していなさい」
「えっ、預かってもらえないですか?盗まれたら困るのに」
宝石や金で豪華に装飾されたその魔剣は、置き忘れたら即座に盗まれかねない豪華な造りとなっている。
実用性のない財宝を常に持ち歩かなければならないのは確かに心配な面がある。
だが、それはアリッサにとっても同じことだった。
「預かって盗まれたら私が困るじゃない」
剣はもはや厄介な物でしかなかった。
カントも苦笑いするしかない。
「そんな顔しないでよ。君はこれでも運が良かったのよ。ほら、これ」
そう言いながらアリッサがカントに渡したもの。
それは、名士のバッジであった。
「この魔剣を引き抜いて、その姿を明らかにしたこと。雷の閃光の新たな性能を明らかにしたこと。これら魔剣の新事実を発見した功績を認められての称号授与らしいわよ。確か2つ目の名士だったかしら?おめでとう」
(要らねえ)
カントは、要らない勲章が一つ増えた気分だった。
もちろん、一定数集まれば格上の称号と交換というゲームのような都合のいい制度はない。
「功績は二つのような気がするのですが、貰えるのは一つだけなのですね」
「カント君が、昨日壊した像の修復に大金貨450枚かかるんだけど、それは王様が肩代わりしてくださるそうよ。貴方が耳を揃えて自分で支払えるというのであれば、その権利を主張しても良いのではないかしら」
「・・・今度王様にお礼を言います」
振り返ってみるとカントは魔法を使うたびに何かを壊している。
借金王となっていないのは、もはや奇跡と言えるのかもしれない。
また、要らないと思った二つ目の名士の称号であるが、少ない額ではあるものの、今後ずっと年金が保証されることになる。
これらは、アリッサの言うとおり幸運なことであると認めざるを得ないのであった。
「それはそうと、何故カント君は貴族を名乗らないの?」
その後、アリッサの質問に色々と答えさせられることとなった。
この日、やっとアリッサ念願の学園長面談が実現したのであった。




