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誰かの思惑に巻き込まれた話(異世界転移編)  作者: 近江守
第1章 異世界に飛ばされて
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雷撃の姫君

「それでは完人様は、お嬢様と馬車にお乗りください。私は御者を務めますので」


 小屋を出ると、馬一頭が引く小さな馬車があった。

 

「ハウンドさん、こんな怪しい俺をアイリスと二人きりで馬車に乗せても大丈夫なんですか?」


 少なくとも、完人が元いた世界であれば「事案」である。

 この世界でも警戒するに越したことはないが、自分が子供になっていることを忘れている完人であった。


「確かに乗せない方が安全かもしれません。しかし、貴方だけ歩かせるというのは酷な話です。完人様が気絶している時に、丸腰なのは確かめておりますし」


(ああ、やっぱりそのあたりはチェックされてたんだ。この人、こういうことに抜かりはなさそうだな)


 この執事はいつも厳しい表情をしているので、何を考えているのかよくわからなかった。

 まだ、完人への警戒を解いていないのかもしれない。

 ハウンドは続ける。


「第一、お嬢様は丸腰の貴方にやられるほど弱くないから大丈夫です。お嬢様が魔法で反撃すると、この馬車も使い物にならなくなりますので、冗談でも不審な行動は慎んでください」


「そ、そうなんですか。わかりました」


(俺こそ、冗談で殺されたりしないだろうな)


 一抹の不安を抱えながら、完人はアイリスに続いて馬車に乗り込んだ。




 ハウンドが操縦する馬車に揺られながら、二人は会話を続けていた。


「さっき魔法と言ってたけど、魔力って火とかが出せるやつのことか?」


「そうだけど?私も火、水、光、いろいろ出せるわ」


「それは凄いな。俺の世界には魔法なんてなかったからな」


「嘘でしょ?完人のいた世界は未開の地だったの?」


「未開の地って、凄く馬鹿にされてる気がするな。魔法が無いなら無いなりにうまくやっていこうと工夫するものなのさ。例えば、一般人だってこの馬車よりも速く走る乗り物を持っていたぞ」


「そんな速く動ける動物がいるということかしら」


「ええと、魔力に代わる力を使ってるってところかな」


「そうか!この世界にはない力があったのね!」


「多分そういうことじゃない」


(子供にはわからないだろうとか言うと怒りそうだし、どう説明したものか。困ったな)


 それはそうと、改めてアイリスを見てみると、やはり美少女であることに関心してしまう。

 もしこの少女が可愛くないというのであれば、これまで完人が見てきた少女達を可愛いとは言えなくなってしまうだろう。

 将来は何人もの男が彼女巡り争い合うことになるのは想像に難くない。

 しかし、それは完人が勝手にそう思っているだけであって、これがこの世界の標準なのかもしれない。

 

(何事も比較が重要だしな)


「私の顔に何かついてるの?」


「いや、別に。アイリスがかわいいなと思ってただけだよ」


 アイリスの顔が真っ赤になった。


「そ、そんなお世辞言っても、何も出ないんだからね!」


「うん、わかってるよ」


 お互い無言になって、少し気まずい空気の中、馬車は進んでいった。

 サラリーマンとしての本能が、無言は駄目だと警鐘を鳴らす。

 悲しいさがである。


「そういえばさ、ここが異世界だと思ったのは、最初月を2つ見たからなんだ」


 完人が唐突に話題を振ったものの、アイリスは言っている意味が理解できなかったようで、首を傾げた。


「それで何故そう思ったの?」


「俺がいた世界は月が1つだけだったから」


「そうなの?月は4つあるわよ」


 春の黄月、夏の赤月、秋の緑月、冬の青月とそれぞれの季節を司る月があるらしい。


(衛星が1つとは限らないし、ここは驚くところでもないか)


 魔法を見た後では、もはや月の数ごときに驚く要素は何もなかった。


「一年中同じ月だと、季節の移り変わりも感じにくそうだね」


「確かに月で季節を感じることはあまりなかったな。4つもあるとお月見が捗りそうだな」


「そうね。うちもちゃんと年4回やってるわよ。貴族の嗜みだから」


(冗談のつもりだったのに。やっぱり常識は通用しないな)


 そんなことを考えていると、外から大声がした。


「そこの馬車、止まれぃ!」


「何だろう?」


 馬車の小窓から外を伺うと何人も男に馬車が取り囲まれていた。


「きっと盗賊よ。念のためこの馬車中心に言語理解の魔法をかけ直すわね」


 アイリスは取り乱すことなくそう答える。

 そんなことをしているうちに盗賊に囲まれ、馬車は完全に停止した。


「有り金を全部置いていけ。そうすれば命までは取らん」


 一際大きな毛むくじゃらの男が大声で叫んだ。

 おそらく、盗賊の頭なのだろう。


「どうしようかな」


 アイリスは、困ったという顔をして考え込んでいた。


「お前、強いんじゃなかったのか?魔法で撃退すればいいじゃないか」


「私、手加減できないから、あの人たち死んじゃうと思うんだよねえ。ハウンド一人で相手をするには数が多すぎるし・・・」


 アイリスは苦笑いをして見せた。


「ひとまず、ここは穏便に済ませるわ。あんな奴らの討伐なら、後で簡単にできるから」


 アイリスは小窓を開け、顔を出した。


「ハウンド、この方たちにお渡ししなさい」


「はっ、畏まりました」


 ハウンドは、懐から革製の袋を取り出し、頭領の手前に投げつけた。


「へへへ、いい心がけだ」


 男は袋を拾い、中身を確認する。


「だが・・・これっぽっちで済ますわけにはいかねえな」


 男はニタニタと笑ってみせた。

 もともと無事に返すつもりなどなかったのかもしれない。


「おう、お前なかなかの上玉じゃねえか。これは高く売れそうだぜ。出てきな」


「きゃっ、何するのよ!」


 盗賊の一人が、アイリスを馬車から引きずり出した。


「アイリス!」


 完人も思わず馬車から飛び出した。


 「お嬢様!」


 ハウンドも御者台から飛び降り、腰に下げたサーベルに手を掛けた。

 その瞬間だった。


「サンダーボルト!」


 馬車の後方から声がしたかと思うと、パリパリと乾いた音と共に、電撃が盗賊たちを襲った。

 電光が次々と伝播していく。

 盗賊たちは、感電して悲鳴を上げることもできず、バタバタと倒れていった。


「大丈夫でしたかしら」


 その声の主は、すたすたとアイリスの方へと近寄ってきた。

 それは、一人の少女だった。


「ええ、何ともないわ。ありがとう。ジェシカさん」


「ごきげんよう、アイリスさん」


 ジェシカと呼ばれたその少女は、スカートの側面を軽く両手で摘まみ、ジェシカに向かって会釈した。

 ウェーブのかかった真っ赤で艶やかな髪は腰まで伸び、2つの黄金の瞳は意志の強いそうな視線をアイリスに向けていた。

 歳はアイリスと同じくらいだろうか。

 アイリスとはまた違った雰囲気を持った美少女であった。

 また、その後ろにはメイド服を着た金髪の少女が控えていた。

 彼女もおそらく同じ年代だろう。


「大方、殺してしまうのを躊躇してああなってしまった、といったところかしら。下賤な者共に慈悲など必要ありませんのに。不要な優しさは、いつか命取りになりますわ」


 アイリスは口をつぐんだ。


「ところで」


 ジェシカは、完人に目をやった。


「そちらの方はどなたかしら。貴族には見えませんけれど」


「助けていただいてありがとうございました。アイリスの友達で、完人といいます。よろしく」


 完人は、笑顔で右手を差し出した。


「貴方、貴族なのかしら?」


 完人の握手に応じることなく、ジェシカは完人に質問した。


「いえ、違いますが・・・」


 その答えを聞くと、ジェシカは眉間に皺を寄せて顔をしかめ、完人を睨みつけた。


「私は、公爵家の令嬢なのよ。平民風情が気軽に触れられると思わないで。御母様からは、無用な会話もするなとも言われてるわ」


 次に、視線はアイリスへと移った。


「アイリスさん。こんなのが友人では、貴族の名前が泣きますわよ。付き合う人間はしっかり選ぶことね。私なら、そもそも同じ馬車にすら乗らないわ」


 アイリスは無言のまま拳を握りしめた。


「さて、時間を浪費してしまいましたわ。アイリスさん。あとの処理は、領主の娘である貴女に任せます。メイ、行くわよ」


「はい。お嬢様」


 ジェシカと、メイと呼ばれたメイドは、後方に止まっていた馬車へと戻っていった。

 完人たちが乗っていた馬車よりもずっと豪華な造りである。

 ジェシカを乗せた馬車は、完人らの馬車を追い抜き、先へと消えていった。


 その場には、後味の悪い空気となった3人と気絶した盗賊たちが取り残されたのだった。



◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆



A「あの、言語理解の魔法って何なの?スクールでこの世界の500言語を必死に勉強した私の努力は無駄だったの?」

B「そんな便利なものがあるなら俺も使っているさ。お前も薄々わかっているとは思うが、仕掛けは単純なものらしい」

A「そう、大変なのね・・・。誰か翻訳魔法を開発してくれないかしら」

お読みいただきありがとうございます。


いずれ才能が明らかとなる完人君を一方的にボコれるのは今だけ。

そんな気持ちで書いてみました。

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