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誰かの思惑に巻き込まれた話(異世界転移編)  作者: 近江守
第2章 第1編 魔剣との出会い
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剣を求めて

 王都商業地区――問屋から小売店まで多岐にわたる商品が流通する商人が中心の一画である。

 誰かが商業専用地区と定めたわけではないが、商人たちが集まり、自然と形成された古い町でもある。

 カントとアイリスは、騎士用の剣を求めてこの区画までやってきたのだった。


「剣を買うにしても、武器商、武器問屋、鍛冶屋と選択肢はいくつかあるんだけどどうする?」


「剣なんて買ったことないしな。よくわからないんだが」


「それじゃあ、とりあえずそこの武器商店に入ってみましょ?」


「ああ」


 二人が店の中に入ると、店の中には様々な武器が並べられていた。

 剣、槍、斧、鎌等様々な種類の武器を扱っている店だった。

 高級品とみられるものはケースに飾られており、量産品のようにまとめて置かれているものもあった。


「騎士モノの剣だと最低でも大金貨10枚なのよね」


 騎士の剣は、騎士の象徴として持たれるもので、実用面もさることながら、見た目も重視される。

 なぜなら、その剣が子々孫々に代々受け継がれていくからである

 騎士称号を受けた初代が安物の剣を選んだとすると、それが子孫の手に渡ることになり、末代まで恥をかくことになりかねない。

 無論、剣を途中で変えることはできるのだが、歴史を重ねるほどそれをためらってしまう心理が働くため、初代の選んだ剣をそのまま使う騎士が多かった。


「そんなの一番安いやつでいいよ」


 ここにも、それを理解していない男が一人いた。


「そうはいかないのよ」


 とは言っても、アリリスも名士の年金でそれほどの高級品を買うことはできない。

 アイリスは、自分からの持ち出しも含めて大金貨5枚程度の品を考えていた。

 カントの力を持ってすれば、ただの剣がそれほど長く持たないことも計算に入れての考えだ。

 この少年なら、すぐに自力で剣を買い替えることができるようになるだろう。


「他の店も見てみましょう」


「一つの店だけだと比較できないからな」


 次に入ったのは、剣専門店だった。

 店は薄暗い雰囲気であったが、店にはケースに入った高級品しか売っていない。

 二人は店内を一巡しただけで、店を後にした。

 他にも数件小売店や問屋を回ってみたが、どこもそれほど値の付け方に大差がないことが判明した。


「あと鍛冶屋に直接頼むっていうのも手だよな?」


「そうね。ただこの近くにはないみたいなんだけど、行ってみる?一応有名な鍛冶職人の工房が何件か王都にもあるらしいんだけど、私が知っているのは一軒だけよ」


 アイリスは、一軒だけ有名な鍛冶職人の居場所を知っていた。

 以前、アイザックと共に訪れた経験があったからである。


「そうだな。剣もすぐに要るわけでもないし、足を延ばしてみるか。アイザックさん御用達なら品質は問題なさそうだな」


「高くて買えないかもしれないけどね」


 二人は、さらに郊外へと向かって歩き出した。



  ※  ※  ※  ※  



「何だと?もう一度言ってみよ」


 王城の一室では、国務大臣スーリラ卿が苛立った声を上げていた。


「はい、我々が魔力測定器の設定を間違えたようで、魔力量を測り間違えているようです」


「お前たちは、余程来年の予算を削られたいようだな。この前の査定で大幅に削られたばかりだというのに」


「そればかりは何卒ご容赦を!研究院存続すら危うくなります。それに表示モードが違っていただけでして、学園より報告のあった数値を計算し直せばわかります」


 叱咤されているのは、王立魔法研究院の所長である。

 所長は、ダラダラと流れる冷汗をハンカチで拭き続けていた。


「それで、どう間違えたというのじゃ?」


 王は、学園からの報告書に目を通しながら所長に質問した。


「表示が平方根モードになっていました。本来は、加速レベルの参考にするための表示モードのようです。ですから、その報告書の数値を2乗すると魔力量の換算値になります」


「すると、上級魔術師クラスで1万程度、例の少年は約1億ということか?」


「そうなりますね。この前の戦闘でも、鬼が止まって見えていたのではないでしょうか」


「攻撃の魔法を控えようとする判断能力があって、本当に良かったな。何も考えず行動する者だったら、あの街が壊滅しておった可能性もあるやもしれぬ」


「余は、数値が常識はずれで、ピンとこないんじゃが・・・」


「それは本当に人間なのですか?是非我々の研究対象に・・・」


「ならん。ならんぞ。特にお前たちは信用がないからな」


「思った以上に危険な少年じゃな。姫の近くに置くのは失敗じゃったか」


 王が小さな声でポロリと呟いた。


「何の話ですかな?私は聞いておりませぬが」


 スーリラ卿は、聞き取りにくいはずのその小さな声に鋭く反応した。


「それはその・・・」


 王も余計なことを口走ったと黙り込む。


「まあ、その話は後でゆっくりと伺いましょう。ところで、通常モードで測定していたら、彼の数値は表示できていなかったのではないか?」


 大臣の追及の矛先は、再び所長に向けられた。


「・・・」


 この日、王立魔法研究院の来年の予算査定やり直しが決定された。



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