入学オリの裏側
「火3、水2、木4、金2、土1、総合3ね。はい、次」
(ふぁ、ねむ・・・)
私の名前はノルナ。
王立魔術学園で聖典言語を教えている。
今日は、入学生を対象としたオリエンテーションがあり、私は魔力測定の係員をやっていた。
王立魔法研究院が新型の魔力測定装置を作ったということで、その性能の試験も兼ねている。
「作った」というのは、「開発した」という意味ではない。
「組み立てた」という表現が正確である。
原理は、わからないがその製法を古文書などから「発見」し、それを形にしているだけに過ぎない。
(まったく。相変わらず研究院の奴らは使えないわね。一桁で表示しただけじゃ、正確に力がわからないじゃない。小数点以下の表示もないのに六桁も表示があっても意味ないでしょうに)
この学園に入学してくる生徒は、貴族の子息令嬢と優秀と認められた平民である。
それなりに魔力の素質はあるはずなのだが、まだ10歳の子供たちである。
下級貴族の子供ともなれば一桁ということも珍しくない。
(これで、貴族の子たちは終わりね。次の特待入学の子たちは、少しは期待できるかしら)
特待試験の合格基準の中には、魔力量中級以上という基準がある。
このため、下級貴族の子供よりも魔法の素質を持った子供たちがいるのは事実である。
しかし、期待とは裏腹に、殆ど子の魔力は10代ぎりぎりの水準にあった。
「次は某の番だな」
「ええと、ヒッグス・ブライン君ね。じゃあ、ここに右手、こっちに左手を置いてね」
「火204、水326、木168、金183、土411、総合275」
(凄い。今年主席候補のタイタニア家やトルンスタント家の令嬢にも引けを取らないわ。これは特待生筆頭ね)
「はい、次。カント・ヒーラギ君。そことそこに手を置いてね」
(黒髪か。珍しいわね。最近王城にも黒髪の天使が現れたとかいう噂もあるし。どこかの国から一族揃って移民でもしてきたのかしら)
「ええと・・・!!」
私は、目の前の数字を見て驚いた。
視線を目の前の少年の姿に移して、もう一度数字を見て、少年を見て――3往復はしたと思う。
「火10015、水10001、木10002、金10001、土10001、総合10004」
(研究院からの手紙に「何があっても結果はそのまま送るように」という謎の伝言があったけど、こういう意味だったのね)
大声を上げたくなったが、魔力量は重要な個人情報である。
どうせすぐに他の生徒にも知られてしまうことになりそうな気するが、この場で他の生徒に悟られるようなことがあってはならない。
間違いない。
この少年が噂の天使である。
(ああ、カント様。この学園に何を目的として入学されたかは存じ上げませんが、これは何かの運命ですね?身分は隠しておられるようですが、目的を果たせるよう、誠心誠意協力させていただきます)
「あ、あの何か?」
カント様は、困惑した様子で声をかけてきた。
私は知らないうちに、彼の手を握りしめて動かなくなってしまっていたらしい。
「い、いえ。何でもないわ」
既に行動が不審である。
私は慌ててカント様から手を放す。
「そういえば、貴方、言語理解の魔法を使っているようね?もしかして、この国の言葉が話せないのかしら?」
「実はそうなんです。会話は魔法で何とかなりますが、読み書きができないので苦労しているというか・・・」
「そういうことね。私は、聖典言語を教えているの。毎日補習をしてあげるから、私の部屋まで来なさい」
(そういうことだったのね)
私は、今この場にいた理由、否、運命を理解したのだった。
※ ※ ※ ※
「通常の限界の10倍以上か・・・これはまたとんでもない奴が来たな」
魔術学園の学園長アリッサ・バロネ・メーデーは、何度も魔力の測定結果を見直していた。
有名な大魔法学者であるアリッサの師匠は、人間の魔力量には超えられない限界量が存在すると言っていた。
また、それを超えられる者は神の祝福を得た者のみであるとも。
アリッサは、人に限界があるのは当たり前だからと気にも留めなかったが、今回の結果をみると、我が師の言わんとしていたことがようやく理解できたような気がした。
数日前に、国王から書簡が届き、魔力量に才能がある少年を入学させるので便宜を図るようにとの通達があった時には、国を挙げてそれほどのことをする意味があるのか疑問に思った。
才能とは言っても、上級魔術師に毛が生えた程度だろうと勝手に思い込んでいたのだ。
しかし、それでは考えが甘かったようである。
本日の結果のみをみても、取り扱いを間違えてはいけない部類の問題であることは十分に理解できた。
少年の発見、王都への誘導、本学園への入学――ここまでの流れは、アリッサも話には聞いているが、誰かが糸を引いているかのようにスムーズである。
誰も対応を間違えなかったと言い換えることもできるだろう。
同じ様に、自分も最善の対処が求められている。
少なくとも、彼がこの学園に在籍している間は、細心の注意を払う必要があるだろう。
アリッサは、問題となっているその少年を目にしたことはないが、その新入生は遠方の国の出身らしく、この国の言葉を話せないらしい。
そこで彼には補習をと考えていたのだが、自分が指示をする前に聖典言語担当教師のノルナが自ら補習の実施を打診したのだという。
その話を聞いた時、あのいつも眠そうな顔をして、面倒事や手間を惜しむ性格のノルナがそんなことをするのかと耳を疑ったのだが、好ましい誤算と言えるだろう。
王宮も今回の魔力測定については、かなり気にしているらしい。
本日中に報告書を提出するようにスーリラ大臣から念を押されていた。
「今は報告書の作成が先か」
アリッサは、すぐにでもその少年に直接会って話をしたい気持ちを押さえ、筆を手に取ったのであった。




