エピローグ
入学の日が差し迫り、準備も一段落したということで、アイザックは領地へと戻っていった。
カントとアイリスは、今日から学園の寮での生活となる。
「カントの分も含めて、やっと入学の準備ができたわね。カントが観光する時間が無くなってしまったけど、それは入学してからにしましょう」
これから王都に住むのである。
行こうと思えば、いつでも行ける。
「そうだな。俺は、ようやくこの世界での生活に目処が立って一安心だよ」
「そういえば、今まで聞いたことが無かったけど、カントは元の世界に帰りたいと思っているの?向こうの世界にも家族がいたんでしょう?」
「肉親は妹だけだったよ。体が不自由だったから、多少気がかりだけど、しっかりしている子だから、あまり心配はしてないな。急いで帰ろうとは思っていないよ。帰る方法もわからないし」
「そう。まずはしっかり勉強して魔法を使いこなせるようにならないとね」
「帰る方法があるか検討するのはもっと先のことだろうな。このままでも、戻っても、どちらでも俺はなんとかやっていくさ」
「これからは、私たちは同級生ね。良き仲間であり、良き好敵手となれるようお互い頑張りましょう」
「ああ、よろしくな!」
※ ※ ※ ※
自領への帰路の途中、アイザックは、揺れる馬車の中で自分の失敗を一人痛感していた。
それは、カントに巡礼用の衣を着せたことである。
黒髪という珍しい見た目に、よく漂白された真新しい衣を着せたことで、カントが、聖典に描かれた天使のイメージにダブって見える。
そんな信者が非常に多かったのである。
このため、カントと王城を訪れたあの日、城内で多くの人々がカントの姿を目撃し、天使が王城に現れたという噂がまことしやかに流れた。
さらに、謁見の間の人払いをしたという異例な行為も、噂を助長させることにつながった。
王国は、神の怒りを買うようなことをしてしまったのではないか。
近々、王都で天変地異が起きるのではないか。
様々な憶測が囁かれた。
既に、この噂に反応して物価に動きがみられるらしい。
また、教会のとある一派は、既にこの話を都合よく取り入れようと画策しているようである。
カントの力が、誰かの権力のためだけに利用されてはならない。
アイザックは、そう考えている。
聖典の中でも、過去の人物は、旅人――拡大解釈すれば異世界人――に優しくするよう、後世の我々にアドバイスを贈ってくれている。
異世界人であるカントが、この世界でも気持ちよく生活していけるようにすることは、この世界の人間の責務であるのだ。
その上で、カントがこの世界に恩恵をもたらしてくれるのであれば、それほど都合の良いことはない。
今回の短い旅を経て、アイザックは改めてそれを確認したのであった。
アイザックはポケットから取り出したバッジを眺める。
それは、名士の称号を示すものであった。
実はカントを王城まで連れてきたという功績で、新たに王から授与されていたのであった。
一つ減る予定だった自分の称号は、なぜか今も変わっていない。
「大丈夫か?この国は」
アイザックは、一人呟いたのであった。
次回から本編は新章突入ですが、
【新編聖典】を追加投降します。
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