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誰かの思惑に巻き込まれた話(異世界転移編)  作者: 近江守
第1章 異世界に飛ばされて
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出会い

 完人が目を開けると、丸太で組まれた天井が見えた。

 どうやらベッドの上で眠っていたようである。


(助かったのか)


 体を起こし、周りを見渡すとここがログハウスのような小屋の一室であることがわかった。

 そして、そこにいたツインテールの少女と執事風の男と目が合った。


「○▼∈※△∂▲∨※◎∫★●$#」


「◇%*☆/δ&■¥」


 何語だろうか。

 全然言葉がわからなかった。

 しかし生け贄として殺されそうな雰囲気でもない。

 自分が助けられたのであろうということが、状況から判断できた。

 二人は何か言葉を交わした後、少女はブツブツと呪文ようなものを唱え始めた。

 完人は、一瞬目の前が光ったような気がした。


「私の言っていることがわかる?」


 突然少女の言葉が理解できるようになった。


「今、言語理解の魔法をここにいる全員にかけたから、これでしばらくは会話ができるはずよ」


 少女は栗色の髪を揺らし、その鳶色の瞳で柔らかい眼差しをこちらに向けながら微笑んだ。

 整った高貴な顔立ち。

 一言で言えば美少女だった。

 完人は魔法が実在し、その効果を目の当たりにしたことに衝撃を受けてそれどころではなかったのだが。


「助けてくれたのですか?」


 完人は一番の疑問点について確認する。


「うん。貴方、海岸に打ち上げられてたみたいなんだけど、あんなところで気を失ってたら危ないからね」


 そういえば自分は海に落ちたのだった。

 記憶はそこで途切れている。


(気を失った後、海岸に流れ着いたのか。運が良かったな)


「私はアイリス、この土地を治める侯爵、アイザック・マーキス・ド・トルンスタントの娘よ。そしてこっちが執事のハウンド。貴方は?」


「柊完人と言います」


「ヒイラギカント?変わった響きね」


「完人でいいです。多分ですけど異世界から来ました」


二人は少し驚いたように目を大きく見開き、改めて完人の格好を確認した。


「異世界など俄かに信じることはできませんが、貴方の風貌は確かに珍しいですな。まず、その黒髪。魔族には比較的多いと聞きますが、この国では殆ど見ない色です。そして何よりもその瞳の色です」


「え、どれどれ?」


 アイリスは、完人の目を覗き込んだ。

 その整った顔がもう少しで肌が触れ合うのではないかという距離まで近づき、アイリスの呼吸が伝わってくる。

 結果的に完人もアイリスの瞳を覗き込むことになるが、その透き通った瞳を見つめていると吸い込まれていきそうに感じられた。


「本当だ!黒なのかと思ってたけど、よく見ると茶色なのね。こんなの見たことも聞いたことがないわ」


 興奮気味にはしゃぐアイリス。

 完人としてはアイリスの鳶色である目の色の方がよっぽど珍しかったが、この世界ではそうではないのだろう。


(珍しくない色ってどんなものだろう)


そんな疑問が頭をよぎったが、それは後で聞くことにしよう。


「貴方が倒れているところを発見したとき、魔族が倒れているのかと思ったんだけどまさか違う世界から来たとは思わなかったわ。貴方、魔族とかエルフとかの仲間なのかしら」


「いえ、違いますが」


(エルフや魔族までいるのか。異世界であることを疑う余地がないな)


 頻繁に耳を疑うような単語が聞こえてくる。

 今、この場でいちいち質問していたらきりがなさそうだ。

 完人は、その場ですぐにいろいろと質問したい気持ちをこらえた。


「ほう、違うのですか。小さいのにしっかりしていらっしゃる」


(小さい?)


 再び耳を疑う単語が耳に入ってきた。

 その言葉に完人は、頭に大きなチョンマークが浮かんだ。


 いままで、そんなところまで気が全く回らなかったが、よくよく自分の手を見つめてみると、いつも見慣れたものよりも何故か小さいような気がした。


(まさか!)


 完人は、はっとして慌ててベッドから飛び出し、壁に掛かっている鏡を覗き込んだ。

 そこには一人の子供がいた。

 見覚えがあるが懐かしい顔。

 幼い日の自分そっくりだった。


「子供になってる・・・」


 完人は唖然とした顔で鏡の中の自分と自分の体を交互に確認していた。


「子供ではなかったということですかな」


「ええ、大人というには十分な歳でした。子供に見られるようなことはなかったかと思います。異世界に来て、さらに若返ってしまったってことか」


「貴方、どう見ても私と同じぐらいの歳にしか見えないんだけど。それで大人みたいな話し方してたのね。エルフだと若く見られることが多いから、そうなのかなと思ったの」


「どれも俄かには信じがたい話ですな」


「信じてもらう必要がないので、その点は気にしてないのですが、実際に証明は難しいでしょうね」


「まあ、この際それはどうでもいいわ。実は、私たちは移動の途中だったの。ここは、農村にある丸太小屋なんだけど、ひとまず私たちは屋敷に帰るわ。貴方も一緒に来たらどうかしら。数日程度なら食事と寝る場所の提供を約束できると思うわ。お父様が駄目だと言われたら無理だけど」


「それは有り難いです」


「あとね」


アイリスが方眉をピクリと上げた。


「同じくらいの歳にしか見えないのに、その言葉使づかいが気になるのよね。友達に話すようにしてもいいからね」


「うーん。貴族のお嬢様だからと遠慮しているつもりだったけど」


「実はお嬢様は友達が少ないのです。近くに歳の近い子供があまりいませんから」


「ハウンド、余計なこと言わないで!べ、別に無理にそうしてほしいってわけじゃないからね!」


 アイリスは赤面して、目を逸らした。


「これは出過ぎた真似をいたしました」


 ハウンドは、アイリスに軽く頭を下げた。


 (ここで俺は本当は子供じゃないからというのは無粋なのだろうか。本人がいいって言っているならいいよな)


「それじゃ遠慮なくそうさせてもらうよ。アイリスって呼んでいい?今日から俺たちは友達だ」


 完人が微笑むと、アイリスの表情も綻んだ。


「うん。よろしくね。完人」


 この日、この場所で、この世界が大きく動くきっかけとなる運命的な出会いがあった。



◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆



A「ちょっと担当者呼んで来いって叫びたくなるレベルだな」

B「転移先を海上に設定したらしいね。あの世界の担当者、アホなの?」

A「冬場の冷たい真夜中の海に衣類を着せたまま落とすとか正気じゃないね。慌てて助けに行って何とか間に合ったから良かったけど、速攻で溺れて意識がなくなってた。あと少し遅かったら駄目だったと思うぞ」

B「例えば、あの国の王の前に出現させれば、死にそうな目にも遭わず、簡単に話が進んだんだけど。基本的に介入しない決まりなのに、早速やってしまったし、この後が不安ね」

A「ああ、まったくだ」

B「そうそう。今回の介入について、始末書を提出しろだって」

A「え?俺が悪いのか?」

B「私は、確かに伝えましたからね」


お読みいただきありがとうございます。

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