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他愛もないプロローグ

不定期です。

楽しんでいただければ幸いです。

僕こと、 暁 良太郎は、普通の高校生だ。平凡な見た目、平凡な家庭、平凡な友人、平凡な成績。決して物語の主人公足りえない僕が持っていたたった1つのオンリーワン。それは、「他人の求めるもの」を感覚的に理解できる、というものだった。無理やり言い換えれば「第六感」。最初はなんとなく、こんなことをしてほしいのかな?というレベルだった。しかしそれは、次第にこの人はこんな事を求めている。そうはっきりと理解出来るようになった。


(なら、使おう。この能力を。きっと誰が不幸になる事もないし、もしかしたら幸せにつながるかもしれない)


何となく、この能力を使うのには気が引けていた。相手と仲良くなるのにうってつけではあるが、ある種のズル。まるで計算ドリルの答えを見ながら、ドリルを埋めていく、そんな感覚だった。

しかし、これを使わない。それは一種のエゴで逃げなのだと、先の一件で思い知った。ここではそれを僕が語ることはないけど、だからこそこの能力を使おうと、そう思えるようになった。


「良ちゃん、何か雰囲気変わった?」


「ん。。。いや、そんなことはないよ」


僕を見て何かを感じたのだろう。数少ない友人の七咲 孝が僕に尋ねた。


「そうか?なーんか悟ったような、達観したような感じなんだけど」


「それは褒めてるのかい?暗に『老けてる』って言っているように聞こえるけど」


「良ちゃんが精神的に老けてるのは今更だろ」


「違いない」


そう言って僕たちは笑い合う。何てことはない日常の一部。きっとそれはこれからも変わらないし、続く。この能力の有無に関わらず、続くはずなのだ。


ただ、この能力が、この日常を少し彩る事になる。それが当然だということに僕は気付けなかったのだ。












「良ちゃん、あと30分で着くってさ」


孝の言葉に僕は目を覚ました。揺れるバスの中でこれだけ眠れたのは最近疲れていたからだろうか。


「起こすには早くないかい?」


「早めに起こして損はないよね。はい、準備準備」


孝は中学からの友人であるが、どうもお節介が過ぎるように思う。他人のことばかり気にかけて、自分はどうなのかと問い詰めたくなるが、私生活学業部活完璧超人の孝にはその必要はない。なにせ、僕はこいつに能力が反応したことがないのを知っているからだ。


「最初はなんだっけ」


「しおり見てないの良ちゃん。班ごとにコテージの掃除、その後にレクリエーションだよ」


「ふーん。なるほどね」


そう、僕は決して孝と2人で出かけてるのではなく、学校の行事としてバスに乗っているのだ。夏休み前の恒例行事として、学年ごとに学習旅行というものがある。一泊二日の旅行で、一年生の時はテントを張ってキャンプだった。


「良ちん、テンション低すぎ!バーベキューだよ!バーベキュー!レクリエーションって言ったってほぼ遊びみたいなもんなんだし!テンションあげてかないと!」


「僕はインドア派なんだ。楽しみは夜の心霊番組特番くらいだよ。茜みたいにハイテンションになれないよ」


「ちぇー。良ちんノリわーるーい」


彼女は、佐々木茜、同じクラスの中心的存在で、陸上部のエース。なんやかんや友人の少ない僕を気にかけてくれている。明るく優しい性格で、制服の下に隠れた陸上で鍛えられたその体は男子高校生からすればたまらないものらしい(孝談)。


「でも、レクリエーションが肝試しとかだったら楽しみかな。番組もいいけど体験してこその心霊だからね」


「ほっほー!いいじゃんいいじゃん!良ちん心霊好きなんだね!うちらで勝手に肝試しやっちゃおうか」


この時でも、彼女が何を求めているかが分かる。

彼女はノリを求めているのではなく、『全員が楽しむこと』を求めているのである。クラス委員としての責務なのだろうか。難儀なことである。


「何にせよ楽しみだよね。良ちゃんと泊まりに行くなんて中々ないし」


「孝くん仲良いのにそういうのないの?泊まりに行ったり来たり」


「良ちゃんのプライベートは謎に包まれてるからね。俺も知らないよ」


「へー。良ちんのプライベート、気になりますなー」


「別に大したものじゃないよ。インドアの塊だからね」


実際はそこそこ外に出て活動しているのだが、別にそこについて話すつもりも必要性もない。

それからくだらない話をしているうちに、目的地のコテージについたようだ。


「よーし!バスから降りたら班ごとに分かれてコテージに移動、荷物を置いたら清掃、その後に広場でレクリエーションだ。班長は掃除道具を取りに来てくれ」


担任の大崎がそう告げるとクラスメイト達はゾロゾロとバスを降りる。そのほとんどが興奮を隠しきれないようで浮き足立っているようだ。


「良太郎くん、私清掃道具取ってくるね!先にみんなでコテージに向かってて!」


僕らの班の班長である、小林凛が僕の肩を叩いてそういった。

綺麗な黒髪に赤いリボンで結ばれたポニーテール。清楚という言葉がぴったりな彼女は僕に笑みを浮かべてバスを降りて言った。


「さてさて、楽しみましょうか」


そう呑気にバスを降りる僕だった。

僕は、後に自分の甘さと女運の悪さに非常に後悔する事となる。

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