8、ドラゴンとの戦い
ボウ、ボゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
「ははは、どうしたんだ? 焼き鳥になるのが怖いのか?」
ドラゴンが威嚇に火を吹く傍ら、下衆の表情をした少年が下衆の言葉を吐き連ねる。
「どうしたんですか、ピヨちゃん? 狼を倒した時みたいに果敢に戦ってください。あの時のピヨちゃん、カッコ良かったですよ?」
褒められても嫌だし。
相手ドラゴンだし。勝てる訳ないし。
「そうだ! もしあのドラゴンに勝てたら、ピヨちゃんの大好物の野菜の芯をたくさんあげちゃいますよ!」
好物じゃないし。
何だこれ? 飴と鞭を使い分けようとしてるのか?
飴の割に鞭が凶悪過ぎると思いませんかね?
時給50円で働けって言われてるぐらいやる気でない!
「あっはっはっは! クユユ、どうやら使役獣を使いこなせていないようだな!」
「ち、違います! 今日はちょっと調子が悪いだけです!」
「ほ~、今日はねぇ~? 今日もじゃないのか? あはははははは!」
「ぐぬぬぬぬぬぬ~」
めっちゃ少年が煽ってくる。
ドラゴンを使役してるということで余裕がすごい。
まあ相手がヘッポコとこれまたヘッポコなヒヨコならそうだよな。
いかん、めっちゃ腹立ってきた。
ヒヨコだとナメやがって。
いかん、いかん、いかん、いかん。
相手はドラゴンだ。
いくら腹が立とうと勝てっこねぇ!
「おらチキン! かかってこいよ! 焼き鳥この!」
「ぐぬぬ、言われたい放題です。ピヨちゃん、お願いですから戦って下さい。このまま落ちこぼれは嫌なんです」
無理です。
腹は立つけど無理なんです。
「私のおやつ、全部あげますから……」
やってやろうじゃねぇか。
なんだって? おやつ? 加工食品じゃねぇか。オケオケ。
よし、飴の対価は鞭と同等になった。
今ならドラゴンにすら勝てそうな気がする。
俺は意気揚々とドラゴンの前に躍り出る。
「ピヨちゃん!? 戦ってくれるんですか!?」
あたぼうよ。
人間、食い物のためならなんでもする。
今の俺はヒヨコだが。
この世の生物は食べるために体を動かすんだ。
昔、農民は食い物の為に一揆を起こしたそうな。
今がソレだ。
食い物ってのはどんな逆境をも打ち勝つ発端になりかねない。
よっしゃ、今の俺ならドラゴンなんて目じゃない……気がする。
「ヴォアアアアアアアアアアアアアアア!」
ドラゴンがめっちゃ咆哮を上げている。
言葉の意味が分からないため、これはただの威嚇だ。
意気揚々と歩いてくる俺を見て、ドラゴンの表情がハッキリと変わる。
「何故だ、小さくか弱いヒヨコよ。何故、俺に立ち向かう」
ドラゴンが何か話しかけてきた。
「力の差は歴然、見て分からないのか?」
「知ってらぁ、だが負けられねぇ」
そう、食い物のためにな。
「そうか、それ程までにあのクユユという娘を思うか。使役士と使役獣との間に生まれた輝かしい絆、感動ものだ」
めっちゃ勘違いしてるし。
クユユじゃねーし、食べ物の為だし。
それに絆ってなんですか?
まだ知り合ってっから1日ぐらいしか経ってないけど。
「何か勘違――」
「うおお! 思わず涙してしまう……羨ましい」
そう言ってドラゴンが頭を伏せた。
あれ? これ手加減してくれるパターンか?
超ラッキー。
難易度がベリーハードからイージーに落ちた。
「その意義や良し、ならば俺も相応に戦わねばな! 最初こそ手加減するつもりだったが、殺すつもりで丁度良いということだな!」
「待って待って、手加減して下さい」
「構えろヒヨコ! 行くぞおおおおおおおおおおお!」
「あああああああああああああああああああああ」
うわー! うわー!
あああああああああああああああああ!
あああああああああああああああああ!
くそっ! シットッ!
難易度がアンノウンになっちまった!
猛スピードでドラゴンがこちらに迫り来る!
蟻に迫り来るダンプカーが如し。
俺は跳ね飛ばされた。
「どうした! そんなもんか!」
「ピヨオオオオオオオオオオオ」
「その言や良し! そうだ! ウネリを上げろ!」
意味分からんし。もー。
今のは鼓舞じゃなくて、悲鳴だし。
跳ね飛ばされた事によって地面に俺の体がバウンドして行く。
それを見たクユユから悲鳴が上がった。
「ピ、ピヨちゃんーー!?」
くそ、女の子が見てるんだ。男してがんばねば。
幸いにも、俺の体にはダメージ無し。
ドラゴンの突進にも負けない俺の体。
いいぞ、なんとか戦えそうだ。
「そうら、もう一発!」
「ピヨ!」
眼前、迫り来るドラゴンの突進を間一髪で避ける。
避けた一瞬の間を突いて火の玉をお見舞いしてやった。
……が、大してダメージは無かった。
ドラゴンの鱗の表面を少し焦がす程度。
「ほう、火を吹くとは珍しいヒヨコだ。だが、痛くも痒くもないな」
「弱点教えて下さい」
「ふん、竜を傷付けられるのは竜だけだ」
何か普通に弱点教えてくれた。
でも何ですかソレ。
やだー、ラスボス設定ですか?
弱点聞いても打つ手なしじゃないですかー。
俺ヒヨコだしー。
「ソチラが火を吹くなら俺はコレだ」
「ピヨ!?」
――ボボボボボボボボボボボ。
ドラゴンが吐き出したのは真っ黒いブレス。
レーザーの如く一直線に放たれたブレスを俺はギリギリの所で避けた。
ドラゴンの攻撃を避けれて良かった。
ブレスに触れた芝生が瞬く間に腐り落ちていく。
なにそれこわい。
これはアレだ。状態異常が付加される奴だ。
状態異常【腐】
まじか、喰らったら終わりじゃん。
そう絶望していた直後、機械みたいな音が脳裏に流れた。
『スキルを取得しました』
『取得スキル:«ドラゴンブレス»【闇】』
おえ!?
スキル? ドラゴンブレス?
頭ん中に変な声が。
ええい、良く分からんが、この状況を打開するには持って来いだ。
考えてる暇なんか無い!
出ろー! ドラゴンブレスかっこなんとかやらー!
すると、俺の口から火の玉では無く、先ほどドラゴンが放った真っ黒いブレスが出てきた。
「な……なに!?」
「ピヨオオオオオオオオオオオ!」
にがっ! にがっ!
口がら出てきた黒いブレスが舌に染みやがる!
けれども、同じ技を撃ってきた俺に呆気を取られたドラゴンは、反応が遅れてブレスに直撃した。
「ぐああああああああああああああ!」
ドシンと、地を揺らして倒れるドラゴン。
もろに直撃した鱗はたちまちに溶けて剥がれ落ちていった。
よっし!
「くそっ、あれは虚勢では無かったということか」
「虚勢でも何でもないんだけどね。あんたが勝手に突っ込んで来ただけだし」
「慢心も驕りも油断も無かった。完敗だ……」
そう溢したドラゴンは、力なく頭を地面に付けて気を失った。
俺とドラゴン、双方の獣使役士が駆け寄ってくる。
少年がツバを吐き捨て、ドラゴンの頭を蹴って罵倒を浴びせるのに対し、クユユは俺を手の平に乗せて賞賛を浴びせて来た。
「ピヨちゃん、流石です! やっぱりピヨちゃんは強かったです!」
そう言ってクユユは俺の頬にキスをしてきた。
うおおお、嬉しい。
キスなんて1回もされた事ねーよ。
ドラゴンに勝ったらキスをされて、後でおやつも貰えるのか。
うんうん、悪くない。