7、クユユのむちゃ振り
俺は今、クユユの肩に乗せられて異世界の町並みを堪能している。
道が石畳だったり、石造りの家々だったりホント異世界。
前世の日本とはまるで世界観が違う。
道行く人々はカラフルな髪の毛生やしてるし。
何それコスプレ? みたいな格好の人達も居る。
しかもコスプレがコスプレしてないのだ。
嫌に似合っているというかなんというか。
異世界人だ。
すごいのなんのって、今までは画面越しにしか見ることの出来なかったネコ耳を生やした人達も居る。角とか、羽とか、尻尾とか。その他色々もろもろも。
「ふふふ、ピヨちゃん。人間の街は初めてですか? 興味津々って感じですよ」
辺りの光景に見とれていると、クユユに話しかけられる。
テキトウにピヨと相槌を打った。
何せ意思疎通は出来ないから。
ちなみに俺の名前はピヨちゃんと名付けられた。
ピヨと鳴くからピヨちゃん、安直。
猫にタマとか、犬にポチとかそんなレベルだ。
逆にドヴォルザークとか名付けられても困るんだけど。
辺りを見て、ふと気になるのが、やたらと獣を連れて歩いてる人が多いことか。どうやらこの世界、獣を使役するのが当たり前の世界のようだ。
クユユみたいな獣を使役する人は【獣使役士】と呼ばれている。そしてこの世界はそんな獣使役士に溢れている。
まあ、俺みたいなヒヨコを使役しているのはクユユだけだが。
町行く獣使役士は皆、狼だったり、でかいトカゲだったり、同じくでかい大鳥だったり、強そうな獣を使役している。
それが余計に何故、クユユが俺をテイムしたかの疑問を浮かび上がらせる。
あれか、火を吹くからか。
物珍しさで思わずテイムしちゃいました的なやつか。
そして、クユユが今向かってる先は学校だ。
クユユが言ってた、獣使役士の学校があると。
何でも彼女は6年制の学校で既に2年通っているらしく、未だまともに獣を使役出来ない落ちこぼれだったらしい。そんな自分にいい加減に嫌気が差して、獣を使役するために無我夢中で森に入ってきてしまったとのこと。
そこで狼に襲われて、俺が助けて、今に至ると。
それを俺に教えてくれた。
しつこいが俺はヒヨコだ。意思疎通は出来ない。
そんな俺に独り言のように語りかけてきた。
どんだけ寂しいんだ。
「クラスの皆にピヨちゃんを紹介しますね。私だってテイム出来ることを教えちゃいます」
言ってニコリと俺に微笑むクユユ。
止めておいた方がいい。
だって俺ヒヨコじゃん。
絶対笑いものにされるって。
クユユは学校らしき建物の門を潜り、広大な芝生へと足を進めた。
そこに溜まっていた人集りの前に誇らしげに仁王立ち。
クユユは俺を手の平に乗せて見せびらかした。
「皆、私テイム出来ました! 見てください、私の使役獣です!」
俺の姿がクラスメイトらしき子ども達の前に晒される。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
ほうら見たことか、皆目が点になってる。
言葉を失ってる、絶句してる。
止めてくれ、こっちが恥ずかしい。
そして、子ども達は一斉に吹き出した。
「ぶっ……あっははははははは!」
「見ろよ、あれヒヨコじゃん! ダッセー!」
「ヒヨコで何すんだよ!」
「クユユにヒヨコはお似合いだな!」
案の定というかなんというか。
クユユはクラスメイトの笑いものになってしまった。
ていうか俺も笑いものにされている。
「何で笑うんですか? ピヨちゃん強いんですよ? 狼だって一瞬で倒しちゃったんですから!」
「ウッソでー!」
「ホラ吹きクユユ!」
「ヒヨコが狼に勝てるってありえねーよ!」
顔を真っ赤にしてクユユが弁明する。
しかし、それでも止まない子ども達の笑い声。
そこで一人の少年がクユユの前に寄ってきた。
「そこまで言うなら、俺の使役獣と戦ってみるか?」
「望む所です! ピヨちゃん強いんですから!」
少年の挑戦を自身満々に受けて立つクユユ。
何だこれ、俺がこの少年の使役獣と闘う流れなのか?
何で俺がこんな事しなくではならないのか。
正直に言って果てしなくめんどくさい。
それでも俺はクユユには恩がある。
野菜の芯を貰ったし、戸棚を焼いた後ろめたさもある。
よっしゃ、ここでもう一つ恩を売っておけば、今度こそ加工食品を貰えるかも分からねぇ! いっちょ一肌脱いでやるか。
うっしゃ。
両肌一肌ならぬ鳥皮脱いでやるよ。
クユユを使役士として馬鹿にするのは、使役されてる(されてない)俺も馬鹿にしてるってことだしな。
少年はクユユと距離を取って向かい合わせに対峙した。
すると、少年がピュウと口笛を鳴らすと同時に、芝生に巨大な影が出来る。
ドシンと一音、体を震わす振動と共に巨大な影が降りてきた。
姿を現したのは……トカゲ?
いや、違うな。
トカゲって羽生やしてたっけ?
人間の10倍以上も大きかったけ?
大きくないな、羽なんて生やしてないな。
落ち着け、何だこいつ?
真っ赤で岩みたいな鱗を持ってて。
角が頭に2本生えてて。
裂けたみたいな口してて、犀利な牙を持っていて。
蝙蝠の皮膜を翼としてて、尻尾もある。
知ってるぞ。俺知ってるぞ。
ドラゴンだこいつ。ドラゴンだ。
え? 何? こいつと闘うの?
「お願いしますねピヨちゃん。あんなドラゴンなんて倒しちゃって下さい。ピヨちゃんの強さを魅せつけてあげて下さい!」
『ピ、ピヨ!?』
無理無理無理無理無理無理。
ムリムリムリムリムリムリ。
狼とは訳が違うって!
何だこれ……何だこれ!? いきなり難易度、爆上げしてんじゃねーか!
今まで戦ってきた奴らとは明らかに異質じゃん!
戦う順番がおかしいって!
ミミズ→狼→ゴキブリ→ドラゴン!?
もっと着実にステップアップしていこうよ。
「ヴォアアアアアアアアアアアアアアア」
ドラゴンめっちゃ咆哮上げてるしぃ。
あ、これ死んだな俺。