5、見習い獣使役士クユユ
人間の女の子の悲鳴が聞こえてくる。
その辺り一帯には狼の複数の鳴き声も。
どうやらというか、確実に絶対に襲われている。
声のする茂みの奥へと急ぎ、茂みから様子を探ると、3匹の狼に今にも食われてしまいそうな女の子が居た。
目尻に涙を浮かべて尻もちを搗き、木の幹にもたれかかっている。
その周りには今にも飛びかかりそうな狼。
こんな弱々しくて小さい女の子は狼の格好の獲物だ。
いや、俺からしたら狼も女の子も超でかいんだけども。
っていうか何で女の子はこんな森の中に?
自殺行為に等しいだろ。
まあいい、とりあえず食料だ。加工食品だ。
狼を焼いて女の子に恩を売ろう。
して加工食品を貰うのだ。
3匹の中で一番女の子に近づいている狼に向かって火を噴射する。俺の口から放射された火の玉は、付近を紅に染めながら一直線に飛び、狼の顔面に直撃した。
「ぐああああああああああああああああ!?」
よっしゃ、俺ナイスコントロール。
口から出した火の玉は狼の顔面にストライク。
俺、ピッチャー出来るかも知れない。
その場合は口から野球ボールを噴射する変態だけど。
「何だ!? 何者だ!?」
「くそ! どこから!?」
突然仲間が火ダルマになって戸惑いを隠せない狼達。
キョロキョロと火の発射源を探しているが、俺をまだ見つけられないでいる。
続いてもう一発。
またも狼の顔面に火の玉はストライクをかました。
「あらあああああああああああ!?」
「ひ、ヒヨコ!? てめぇ見つけたぞ!」
バレた。
残り一体となった狼は俺に向かって突進してくる。
習って俺も茂みから飛び出し、炎を噴射した。
……が、狼はサイドステップでそれを躱す。
くそっ! 猪みたいなただの突進って訳にはいかないか!
「殺ったああああああああああ!」
「ピヨオオオオオオオオオオ!」
眼前に迫り来る狼の口に成す術無し。
素早さの点では狼に旗が上がった。
俺は食われてしまった……けど、痛くない。
いくら牙を突き立てられようともまるで痛くはなかった。
なんかこう、チワワの甘噛みたいな感じ。
まるで痛くない。
狼が手加減をしてるって訳でもない、俺が硬いのだ。
すげぇ、俺の体。
しばらく狼は俺をまごまごしてると、歯が折れた。
「あんらああああああああああああああああ!?」
「へっ! このチワワめ!」
口から血を撒き散らかすと共に俺は狼の口から開放された。
宙に放り出された最中、照準を合わせて火を噴射。
狼の顔面を捉えて焼きつくす。
スリーストライク!
違うか、この場合は三者デッドボール!
俺の勝利だ。
狼を全て焼き殺し、女の子を方へと振り返った。
女の子は口をポカーンと開けて呆気を取られている。
まあ、こんな小さなヒヨコが狼を全て葬ったんだ。
信じられないのも無理は無い。
俺だって火を吹くヒヨコなんて聞いたこと無い。
『ピヨピヨヨ? (へい、嬢ちゃん、無事か?)』
「え? え? ピ……ピヨ?」
どうやら放心状態らしい。
もっとゆっくり話しかけよう。
『ピヨ?(怪我はないか?)』
「何言ってるか……分からない。喋ってる?」
ちくしょう。
ヒヨコ語は通じないらしい。
俺が喋っても『ピヨ』に変換されて聞こえてるな。多分。
言葉の壁があるならどうする。
このままでは加工食品を貰えない。
「え、えい! 【テイム】!」
『ピヨオオオオオオオオオオオオオオオ!?』
ぐあああああああああああああああ!
女の子が突然、杖から青白いビームを放ってきた。
痛みは無いが体が動かなくなってしまった。
まずいまずい。
くそ、助けてやったってのになんて仕打ちだだだだだだだ。
かかか可愛い顔してとんだ厄介者だだだだだだ。
「テイム……成功した、かな?」
『ピヨヨヨヨヨヨヨヨヨ』
テイム……? 成功……?
はは~ん、分かったぞ。こいつ俺は使役しようとしてるな?
女の子は俺にテイムが成功したか確認してるが、多分失敗だ。
体の自由が効いてきた。
そして、俺は女の子に従うつもりはない。
ましてや捕まるつもりも無い。
やろうめ、よくも、焼き焦がしてやろうか。
「ふふふ、テイム成功しましたね。よろしくです、ヒヨコ君」
言って女の子は俺をつまんで手の平に乗っけた。
殺す。
その可愛いお顔を今すぐ焼き焦がす。
ん……? 待てよ?
俺を使役するって事は、俺を飼うってことか?
つまり、人間の家に侵入することが出来る。
台所に行けば加工食品を食いたい放題。
よっしゃ、そうとなればなんとやら。
使役された振りをしよう。
面従腹背は男がすたるが、来世は待つべからず往世は追うべからずだ。今現在を生きてやる。
『ピピヨ (へい嬢ちゃん、取り敢えず食い物をくれ)』
「自己紹介してるのかな? ふふ、私は【見習い獣使役者】のクユユって言います、よろしくね」
駄目だ、やっぱり通じてねぇ。
つーか、無理やり従えた相手に「よろしくね」ってなんだ。
いや、従った訳ではないが……。
まあいい、後で意思疎通の手段を模索しよう。
取り敢えずはまともな食事にありつけそうだ。