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4、人間の食べ物を食べたい

 腹が減っては戦は出来ぬ。

 日本の先人達はとても良い言葉を残したものだ。


 俺が吹いた炎でこんがり肉と化した狼をたいらげた。

 半分生焼け状態だったがそんなの関係ない。

 もう1回ぐらい火を吹けばいいのだ。


 試しに腹に力を入れて息を吐くと、確かに火が出る。

 俺の体はどうなってしまったのだろうか。


 しかもヒヨコサイズで、俺の10倍以上も大きい狼を一撃で葬れる業火を吐けるのだ。ひょっとすると、俺はとんでもないニワトリの赤ちゃんに転生してしまったのかも知れない。


 いや……、違うな。俺が転生したニワトリは狼に蹂躙されていたし、火を吹く様子も無かった。それを考えてみると、どうも俺だけが可笑しいっぽい。


 他にも何か変な能力があるか試してみたが、現時点で判明しているのは、虫だろうと動物だろうと言葉の意味を理解出来る能力。


 それと火を吹く能力か。こちらは森で使うのはまずい。

 ヘタしたら燃えに燃え移ってこちらが焼死してしまう。

 気を付けねば。


 

 狼に勝てる事が分かったので、故郷(?)であるニワトリの楽園に戻ることにした。仮にもそこは俺の兄弟やママとパパが居るのだ。


 けれども、結構な時間が経ってるので、戻った所で悲惨な光景を見るハメになってしまうかも知れないが。


 





 しばらく歩いたが道に迷った。

 それもそのはず、考えてみれば狼から逃げる時に無我夢中で森の中を走り回ったのだ、方向感覚も狂ってしまい、自分がどこを歩いているのかも分からない。


 見上げた木の枝に種類の知れない小鳥が居たので話しかけてみる。どうやら意識して話してみると、俺の言葉は通じる様だ。


「なぁ、そこの小鳥」

「お前も小鳥だろ」


 いや……そうだけど。


「まあいいや、ニワトリの楽園知らないか?」

「ああ、狼に襲われてた所かい」

「そうだ! そこだよ! 場所知ってるか?」

「止めておいた方がいい、生き残りなんて居やしねーよ」

「そ……そんな」

「これも自然の摂理さ。食うか食われるか、まだ子どものお前にはちと辛いかも知れね~が、強く生きな。あばよ」


 そう言い残して小鳥は枝から飛び立った。


「あんらああああああああああああああああ!?」


 しかし次の瞬間、どこからかやってきた鷲みたいな大鳥にバクリと飲み込まれてしまった。


 これが自然の摂理か。体を張って教えてくれるとは。

 お前の事は一生忘れないよ。南無。



 ニワトリの楽園は壊滅したらしい。

 小鳥の言った自然の摂理に従って。

 完全に行く宛を失ってしまった。


 住所不定無職:ヒヨコ(0歳 生後5日)

 笑えない。


 どうにかして金を稼いで、まともな食事にありつきたい。


 異世界に、ましてやこんな森の中にハローワークがあるとは思えない。そしてヒヨコに就ける仕事などあるのだとうか。


 元人間として、虫で食いつないで行きたくない。

 舌が肥えてしまっている。


 一応は火を吹けるので焼き肉は出来るのだが……。

 いかんせん火力が高すぎて、焦がすか生焼けの二択しか無い。


 言葉を理解できる、簡単に言うと【言語理解】

 これは非常に便利だが。


 火を吹く能力、簡単にいえば……なんだ?分からん。

 これはちょっと使用用途が完全に戦闘向けだ。

 焼き肉なんて出来やしない。


 あの顔面黒焦げ他は生焼けだった狼が良い例。

 

 なんとしてでも人間の食い物を手に入れたい。

 

 ん……? というかこの世界って人間居るのか?

 やべーそれも分からんぞ。


 もしかすると、人間がまだウホウホやってる時代だとか。

 ちょっと進化して石器でウホウホやってる時代だとか。

 更に進化して化学兵器でウホウホとか。

 そして、既に核戦争で滅んでるとか。


 人間はもしかしたらこの世界に居ないのかも。

 だとすると、人間の加工食品は手に入らない。


 あークソ、羊羹ツイスト食いてー。


 食べ物の話をしてると余計に食べたくなってくる。

 ほとんど俺の独語なんだが……。


 あーくそ、マシュマロ食いてー。


 もし本当に人間が居ないなら嫌だな。

 アダムとイヴ仕事しろ。


 こんな事になるんだったら前世でマシュマロと羊羹ツイスト死ぬほど食べておくんだった。何もかも神様が悪い。マンホールから落としやがって。


 ちくしょう、くたばっちゃえ。

 くたばってヒヨコになったのは俺だけど。


「ガルルルルルルルルルルルルル!」

「ガルルルルルルルルルルルルル!」

「ガルルルルルルルルルルルルル!」


 

 狼の鳴き声がどこからか聞こえてきた。

 それも複数だ。

 

 腹が減ってるので丁度いい。

 狩りに出るとしよう。



 声の発生源を辿って狼の居る所まで足を進めると、3匹の狼に取り囲まれている人間の姿があった。


 そう、人間の姿だ。


 居る、居た。人間が。白髪の髪を持った少女が。

 それも白いワンピースを着用していて杖も持っている。

 つまり知恵を持っている。


 既に知恵の実を食べて、アウストラロピテクスから進化している。

 ということは、この世界には加工食品があるということだ。


 よっしゃ、取り敢えずあの狼を狩って、白髪の少女に恩を売って、食べ物を分けて貰おう。これはチャンスだ。


 その考えを元に俺は駈け出した。

 

 


 


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