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16、ヒヨコの作戦会議



 チャーハンのアジト猫屋敷で作戦会議が始まる。

 目的は敵からのクユユ奪還だ。


 メンバーは俺ことヒヨコ。

 ドラゴンのジータ、猫又チャーハン、魔狩り士クシナ、熊王シルジア、そして俺達に仕留められて気絶してるネズミ四匹。


 そこにプラスしてヒヨコのエミィタちゃんだ。


「さあ皆の者、クユユ奪還作戦の会議を始めよう。ピヨちゃん、お前からは何かあるか?」

「ありありなんだけど」


 いや……あの、ジータ?

 これはどういう事なんですかね?

 言っては悪いが、エミィタちゃんは戦力外だろ。

 それに個人的には彼女を戦地に送りたくないのだけども。


「ジータ、作戦会議を始める前に一ついいか?」

「む?」

「何でエミィタちゃん?」


 ジータが顎に手を当てる。

 その横で俺は頭を抱えていた。


 助っ人は頼もしいのだが、いかんせんヒヨコか。

 いや、俺もヒヨコなんだけどね?


 ドラゴンが「助っ人だ!」って連れて来たのがヒヨコだったら開いたクチバシがふさがらないというか。


 もっと強そうなのを期待してたんだけど。


 正面に座るチャーハンも、なんだコイツとばかりに無言でエミィタちゃんを見ていた。

 

 まあ俺的には隣にエミィタちゃんが居るだけで士気が上がるけど。

 

 そうあれこれ困っていると、チャーハンが俺の気持ちを代弁してくれた。


「誰ニャそこのヒヨコは、見た感じただのヒヨコニャ」


 代弁じゃねぇ。失言だそれは。

 ふざけんな。

 エミィタちゃんはただのヒヨコじゃない。

 あれだ、そうあれだ……ヒヨコだ。


 やっぱりヒヨコだな。

 俺もヒヨコだけども。エミィタちゃんもただのヒヨコだ。自分でも何が言いたいのか分からんねぇなこれ。


 とりあえずジータは何か考えがあって連れてきたんだろうが、それがまるで分からん。


「にゃあジータ、なんでこんなヒヨコを連れてきたニ。ヒヨコが二匹も居ると見分けが付かないニャ」

「そこだチャーハン。俺は見分けが付かない所に目を付けたのだ」


 そう言ってジータが鼻を鳴らす。

 

 何? 見分けがつかないって?

 エミィタちゃんはこんなにも可愛いじゃないか。

 オスの俺とはまさに月とスッポンよ。


 隣に座るシルジアに聞いてみる。


「俺とエミィタちゃんってそんなに見分けつかない?」

「ピヨちゃんは我と他の熊王族の見分けがつくのか、無理だろう? 種族が違えばそういうものだ。我から見れば、ピヨちゃんもエミィタさんも違いが分からん。彼女はただのヒヨコだ。ん……彼女? オスかこいつは」

「ぶっとばすぞお前」


 シルジアの言い方に少しイラついてしまった、がだ。

 俺はそこでジータの考えに気付いた。


 なるほどなるほど。

 種族が違えば見分けが付かないって所が重要なのね。

 

「ジータ、まさかお前……エミィタちゃんを俺のスケープゴートに使おうって腹積もりじゃないよな?」

「悪いがそのつもりだ。俺達の中で一番強いピヨちゃんが自由に動けるようにするためには、それしか方法がない」


 ジータの考えは多分こうだ。

 

 クユユを攫った敵は、それを盾に何かしらの要求をしてくる筈。俺達はクユユを守るために大人しくするしかない。


 だけど、大人しく従うしかない筈だった俺は、見た目ソックリなエミィタちゃんとすり替わればあらビックリ、自由に動けるじゃないか!


 敵は俺とエミィタちゃんがすり替わっていても、そっくりな見た目からは気付きもしないだろう。


 多分、こんな感じだ。

 でもそれじゃあエミィタちゃんが危険。

 俺はその作戦に良しと言えない。

 

 すると、エミィタちゃんが俺の背を押してきた。


「ねぇピヨちゃん? あなたは私を焼き鳥屋から助けてくれた、だからあなたが困った時、今度は私が助けてあげたいの」

「でも、危険なんだぞ」

「私は良いよ、一度は死んだ筈の命、それを拾ってくれたピヨちゃんのためなら出し惜しみなんてしないから!」


 くっそ、卑怯だ。

 好きな子にそんなこと言われたら断れないじゃないか。

 

 そんな俺とエミィタちゃんの間に、ジータが横槍を入れてくる。


「ピヨちゃんよ、エミィタは俺が助けを頼んだとき、嫌な顔一つ見せずに承諾してくれたのだ。彼女の気持ちを汲んでやってくれ」


 お前が汲んでくれ。

 忘れてるだろうが、お前は一度、俺とエミィタちゃんの交差点をT字路に引き裂いたんだぞ。


 ちくしょう。

 だけど、エミィタちゃんが良いというなら……。

 いいのか?


「分かった、だけど絶対に無理はするな、いいな?」

「うん、大丈夫だよ」


 エミィタちゃんはコクリと頷いた。

 

 だけどまだ心配だ。

 敵が何を要求してくるか分からない。

 それ以前にどんな手を使ってくるか分からない。

 

 クユユの身が敵に手にある以上、こちらは基本的に受身になる。

 

 しかし、受身を取っていてもどんどんこちらが不利になるだけ。逆にこちらから攻め込まなければ逆転することは出来ない。


 さてさて。どうする。

 攻め込むと言っても、敵のアジトも分からんしな。

 

 ……そうだ。

 シルジアの仲間に敵を探せってお願いしてたんだったな。


「なあシルジア。そういえば敵を探してくれって頼んでたよな? それってどうなったか分かるのか?」


 そう尋ねた瞬間、シルジアが白目を向いたかと思うと、毛が逆立った。何かを受信したようにも見える。

 

「うむ。丁度、その話をしようと思っていた。我の仲間が怪しい人間達とネズミが群がっている所を、森の一角で発見したようだ」

「おお、まじか!? でもなんで分かるんだ?」

「これは熊王族の固有能力だ。仲間達の現在位置の情報、そして思念を、どこに居ようとも受け取る事が出来る」


 まあ地味な能力だがな、と続けてシルジアが白目を解いた。

 

 すげえ、ぜんぜん地味じゃない。

 むしろ便利すぎる能力だ。

 

 ネズミが居るってことはもう間違いない。

 クリステルとロウフェンのアジトだ。

 よっしゃよっしゃ。これで、


「ちょっと待つニャ、シルジア」


 唐突にチャーハンがシルジアを睨みつける。

 

「こっちの情報じゃあ、君たち熊王族は敵の人間にテイムされてたって聞いたニ。何で今ピヨちゃんの味方をしてるのかは知らないけど、一度は敵の手に落ちたって事で間違いないニャ?」

「う、うむ。そうだが、今は我らを助けてくれたピヨちゃんの味方だ」


 そうだ。

 シルジアの今現在は味方。

 そこに間違いはない。


 なんだってチャーハンはシルジアを睨みつける?

 俺が問いただそうとすると、次に放ったチャーハンの言葉が俺の口を塞げた。


「クリステルは、能力を奪えるニャ」


 その言葉にジータとクシナが眉根をひそめる。

 その表情の意味と同様に、シルジアがハッと何かに気付いたようで、俺達が捕らえたネズミに視線を向けた。


 シルジアの能力。

 彼が言うには仲間の現在位置の情報を知ることが出来る。


 もし、クリステルが既に熊王族の能力を奪っているだとしたら、ここにネズミが居る事は非常にまずい。


「最悪ね。私達がここに居る事は、このネズミを通して全部筒抜けってことじゃない」


 クシナそう言ったのと、1匹の猫が猫屋敷に駆け込んできたのはほぼ同時だった。


「おやびん! クリステルの野朗が来ました!」

「……、非常にまずい展開ニャ。ろくな作戦も立ててないっていうのニ」


 やっぱり俺達の位置情報が敵にバレてたようだ。

 

 チャーハンが言ったまずい展開、そこにつけ込むような声が猫屋敷の外から聞こえてきた。


「私の名はクリステル! さあ、全員そこから出てきなさい! 抵抗しようと無駄ですよ!」


 舌打ちしたチャーハンが窓から外を睨みつけながら立ち上がった。 


 もしかしなくても、これはまずい展開だ。

 すぐそこにクリステルの野朗が居やがる。

 


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