10、インコを探そう
俺ことヒヨコのピヨちゃんと、動物の言語が分かる人間クシナは森の中を彷徨っていた。
彷徨っているって言うと迷ってる感じにしか聞こえないが、断じて迷っている訳ではない。俺はクシナが逃がしてしまったインコを探している。
だが、見つかる気配はまったくないな。
インコどころか鳥すら居ない。
たまに野生動物の影が視線を横切るが鹿の類だろう。
お、蟻だ。アリ見っけ。
せっせと餌を運ぶアリを見つけた。
そうだ、インコの事を聞いてみよう。
「よう、アリ」
「呼び捨てすんなヒヨコ」
ん?
いや、まあ、俺が悪いな。
「すまん、アリさん。インコ見なかったか?」
「知らない。俺は忙しいんだ、あばよヒヨコ」
ここで火を吹いてはいけないのだろうか?
いいんじゃない?
いいんじゃね?
呼び捨てすんなと言いつつ、ご自分は呼び捨てですか。
あーそうですか。
だが怒らない。
落ち着け俺。
怒りに任せて火を吹いては、森が燃えてしまう可能性がある。それに隣にはクシナが居るんだ。俺が大人になるべきなのだ、ヒヨコだけど。
「あのアリ、踏み潰していいの?」
「やめろ」
隣で話を聞いていたクシナが足を上げる。
やめろ、俺は堪えたんだ。お前も堪えてくれ。
ほら、パンツ見えてるし。
「ん~、しっかし見つからないわね。どこに行ったのかしら?」
「森の中だぞ? そう簡単に見つかるかよ。取り合えず虫や動物と話せるのが二人も居るんだ、聞き込み調査しよう」
「ちなみに一人と一匹ね、そこ訂正」
言われなくても分かってる。俺ヒヨコ。
しかしただのヒヨコにあらず。
多様のスキルを持つヒヨコなのだ。
ここで未確認のスキルについて考えてみよう。
もしかしたら今の状況にかなり有用かもしれないし。
«本能に抗うヒヨコLv2»
効果:湧き上がる衝動を抑えるアクティブスキル。
衝動買い、衝動食いにお困りの方、いいスキルですよ。
«抗えなかったヒヨコLv2»
効果:過去を学び、学習するアクティブスキル。
一度、遭遇した事のある危険を感知する。
世の中そう上手くいかないね。
ほとんど意味無いわこのスキル達。
「ちきしょう。ジータみたいに臭いに敏感なら、臭いで探すのも手なんだがな」
そうぼやいてもしょうがない。
出来ないもんは出来ないのだ。
っていうかヒヨコの鼻ってどこにあるんだ。
クチバシの上らへんにあるこの穴か?
ふと、視界の右端らへんに黄緑の小鳥が映った。
「インコか!?」
違った、ただの小鳥だった。
「こっち見んなヒヨコ」
「ごめんなさい、鳥違いでした」
「気を付けろヒヨコ」
謎の小鳥が中指(羽)を立ててどこかへと飛び去っていった。
ヒヨコヒヨコうるさいな、こっちも好きでヒヨコやってる訳じゃないんだから。
先程のアリといい、今の小鳥といい、この森の生物はヒヨコに不親切を働かなければならない決まりでもあるのか。
再び森を歩いていく。
う~ん。
駄目だこりゃ。
さっきからほとんど野生動物を見ない。
どうなってんだ。
というか何者かの気配がすごい。
視界の端で走る影がやたらと居る。
上手く茂みに隠れてこちらに身を見せないばかりか、草木を掻き分ける音も無い。これは俺とクシナ、狙われてるな?
何に? って野生動物にだ。
きっと狼かその類だろう。鹿か何かかと思ったが。
どうやらこの気配のせいで、俺達の周りから動物が居なくなっているらしい。
「あんらああああああああああああ!?」
ほら、さっき俺に向かって中指を立ててきた小鳥の悲鳴が聞こえてきた。こりゃあ弱肉強食の摂理に屈服してしまったな。
「え? なになに? 悲鳴?」
「落ち着けクシナ、ちょっと探ってみる」
小鳥の断末魔を受けてクシナが表情を強張らせる。
いくら強そうだと言ってもやはり女の子。怖いものは怖いか。
いい加減、俺達を囲ってる気配がうざったいので、ここで試しにさっき確認したスキル«抗えなかったヒヨコLv2»を使ってみるとしよう。
転生したての頃、森で狼に襲われた事がある。
なら、危険感知が働くかもしれない。
さあ、その本領を発揮してみろ!
«抗えなかったヒヨコ»よ!
【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】【熊】
あ、やっばい。
周りにめっちゃクマいる。
いやいやいやいや。
待て待て待て待て。
もしかすると、異世界の熊はそれこそハチミツを舐めてうめぇ~してるだけの、熊のプー○ん的なアレかも知れん。
「なあクシナ、野生の熊ってどんだけ恐ろしいの?」
「何よ突然……、うん、まあ、獣使役士の死亡理由のトップ3が内の一つが、野生の熊に襲われてって調査が、王国の調査で分かったわね」
「いつ情報?」
「最近の情報」
「それはやばい」
何がやばいって、精神的にも物理的にもだ。
いくら俺の体が頑丈だからって、熊のパンチを食らったらやばいかもワカンネ。
…………どうする。
…………………。
やるしかねぇ!
「ピヨオオオオオオオオオ!」
「きゃっ!? どうしたのピヨちゃん!」
そっちが隠れてるのなら、こっちはやられる前に先制攻撃だ。
茂みに向かって火炎放射を吹く。
横薙ぎにまんべんなく!
「グオオオオオオオオオオオ!?」
「グアガガガガガガガガガ!?」
「グシャアアアアアアアアアアア!?」
炎が点火された所から火達磨の熊達が悲鳴を上げながら転がってきた。勘付かれたと察した熊達がいっせいに俺達に向かって猛突進してくる。
「グオオオオオオオオオオオオオ!」
「グオオオオオオオオオオオオオ!」
「グオオオオオオオオオオオオオ!」
「うるせぇ!」
熊達その数は……分からない。
それだけいっぱい熊が居る。やっばい。
こっちにはクシナが居るのに。
先制攻撃は失敗だったのか?
「クシナ! 俺から離れるな!」
「ヒヨコに守られてちゃ、人間の立つ瀬がないっつーの!」
クシナが熊達に手の平を突き出し「アイス!」と叫ぶと、つららみたいな氷が射出された。
「グギャアアアアアアアアアア!?」
「よし、一匹とった!」
されども一匹だ。
熊達はまだまだいっぱい居る。
なんで俺達を狙ってくんだ。
そんなに腹が減ってるのか。
こんな野生動物までいるとはなこの森。
俺が生まれた森は予想以上に危険な森だったのかも。




