3、キノコってなんだっけ
キノコってなんだっけ?
前世、日本におけるキノコを知る俺から言わせて貰うと、やはり『なんだっけ?』って言わざるを得ない。
キノコってあれだよね。
樹の子って感じでの奴。
菌類だっけか?
生物学的な厳密な説明は……。
専門的な知識を持っている訳では無いから俺は出来ないけど。
二足歩行で歩いてたっけ?
ジータに連れてこられたキノコの森。
ここは数多くのキノコが群生してると聞いた。
俺の眼前。
足の生えたキノコが無数に歩いている。
それを目に捉えたジータが口を開いた。
「さあ、ピヨちゃん。キノコ狩りだ」
「待て、何を狩ろうとしてるんだ俺達は」
「何を言っている。キノコに決まっているだろう」
「俺の知ってるキノコと違うんだけど」
違うってもんじゃねえ。
もはや別の何かじゃんか。
ク○ボーじゃないんだぞ。
配管工事のヒゲおじさんを一撃で葬り去るつもりなのか。
「キノコとは【妖精】の一種だ。人間世界ではこれらの妖精は【魔物】と呼称するそうだがな。何だ? 見解に相違でもあったか」
「まず妖精とか魔物とか言われてもサッパリなんだけど」
魔物は……まあ分かる。
歩くキノコとかRPGの敵キャラに出てきそうだし。
でも、妖精はちょっと……ねぇ?
だいぶイメージをぶち壊すというか。
もっと可愛らしいのかと思ってたよ。
金髪で羽の生えた綺麗な少女。
それがキノコか。
「妖精を知らないとな、ピヨちゃんよ。簡単に言い表すと、“森羅万象の具現化”とでも言うべきか」
「あーもう! 頭痛い! キノコがなんだって?」
俺が頭を押さえると、ジータが困った様に顎に手を当てる。困るのはキノコが闊歩するこの森だ。
ジータはいちいち回りくどい。
2階から目薬というかなんというか。
簡単に言い表すと、中二病か。
「う~む、どう説明すべきか。この世に強い未練を残して死没した生物が、制約を持って現世に具現化した物と言うべきだな。このキノコ達はそれが繁殖した者達だろう」
「要は実体を持った幽霊ってことだな」
「おお、それだ。一言で言い表すとそうだ」
取り敢えずはRPGに出てきそうなキャラってことだな。
それならまだ納得ができる。
よっしゃ、レッツキノコ狩りだ。
歩くキノコ……歩行キノコのでかさはクユユより一回り大きいくらいか。目や鼻は付いてないが、口はある。非常に外見がグロテスクだ。
「ジータ。その件のキノコってどんな奴だ」
いや、自分で言っててなんだが、キノコに『奴』と当て嵌める日が来ようとは。
「細長くて傘が半球形のキノコだ。分かりやすく言えば、人間の雄が股下に生――」
「マツタケみたいな奴ってことだな」
外見が分かれば後は簡単。
シラミ潰しが如く探していこう。
というか森に入るのは久しぶりだな。
1ヶ月かは過ぎてるな、確実に。
あの頃は腹が減っててミミズやら狼やらを狩ったが、今現時点、キノコの化物を狩ることになるとは、あの頃の俺は夢にも思うまい。
この森が転生のスタート地点だったら嫌だな。
確実にチビッちゃう自信がある。
「なぁ、ジータ。この森はいつもこんな感じなのか?」
「いや、違うな。キノコ達が姿を現すのは、この湿った時期の一週間だけだ。普段はそこら普通の森と変わらん」
「ふ~ん」
ジータが言うには一週間。
このキノコ達が森を支配するらしい。
それ故かは知らんが、キノコ以外の生物がほとんど居ない。なんか嫌な予感がするのは俺だけか。
「うむむ。何故かキノコ以外の生物が見当たらないな。どうしたものか」
どうやら俺だけじゃなかったみたいだ。
ジータも首を傾げている。
「どういうことだ、ジータ」
「普段この時期になると、街に住む猫と鼠が一斉にキノコ狩りを始めるのだが、それが見当たらない。競争になると思ったのだが……はて、どうしたことか」
猫と鼠のキノコ狩りというのが気になるが、今は自分の身の安全を考えよう。
普段居る筈の者が居ない、考えられることはいくつかあるな。
その猫と鼠が今週はのんびりしましょうと、のほほ~んとしているか。あるいは、この森に住む何かに既に殺られてしまっているか。
「ってことは――」
ズシン。
俺の言葉をかき消す足音と共に、奴が現れた。
細長くて半球形の傘を持つマツタケみたいな奴。
前世の俺のよりご立派だ。
あいつか、件のキノコって。
「キシャアアアアアアアアアア!!」
えぇ!?
キノコが叫喚しやがった!
聞いたことねぇ!
とんだ異世界クオリティ。
そして馬鹿でかい。
ジータと同じくらいのキノコが現れやがった。
ボスか! ヌシだな、この森の!
「ジータ! こいつか!」
「おお、ここまで大きい個体は初めて見る」
なるほど。
ここまでデカイ奴はそうそう居ないって事か。
100人前はありそうだ、食いがいがあるってもんよ。
「キシャアアアアアアアアアアアア!」
「キシャアアアアアアアアアアアア!」
「キシャアアアアアアアアアアアア!」
「キシャアアアアアアアアアアアア!」
ん?
マツタケキノコが無数に湧き出てきた。
なんだこいつら。群れを作ってたのか?
「キシャアアアアアアアアアアアア!」
「キシャアアアアアアアアアアアア!」
「キシャアアアアアアアアアアアア!」
「キシャアアアアアアアアアアアア!」
さらに湧くわ湧くわ。
森のヌシが大挙を成して俺達を囲った。
これはもしかしなくてもまずい展開だな。
「ジータ、これはやばいんじゃないか?」
「まさか竜を襲うキノコが居ようとは、初めて聞くな」
「ある意味、ヒヨコを襲うキノコも初見だ」
ジータが睥睨するもキノコ達が怖気づく様子も無し。
まさか町の近くの森がこんな奇々怪々な森だったとは。
1000人前はあるな、これ。