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2、お返しに

 クソ熱い日差しの下。

 アイスの冷たさがひんやりと舌の上を転がっていく。最高。


 すごいねアイス。

 熱に晒されて溶けていく。

 そこを掬い取るのが楽しい。


 アイスを考えた人に賞を与えたいね。

 なんだっけ、ノーヘル賞だっけ?

 盗んだバイクで走り出しそうな名前の賞。

 なんの賞だかはよく分からないが。



「う~ん、やっぱりタダは、悪いですね」


 アイスを食べ終わったクユユが、ポツリと漏らした。


「何かこう、おばあちゃんからアイスを貰ったお礼に、お返しをしなければですね」 


 え? 食い終わってから言う?

 アイスに手を出した俺までその『何か』を手伝わなければイケナイ流れになってしまうのでは?


 めんどくさっ!


「ピヨちゃんは何がいいと思います?」


 クユユがそう訪ねてくる。

 意思疎通が出来ないことを分かってる筈なのに。

 まあ、取り敢えず……何だ?


『ピヨピヨ(肩叩き券)』

 

 ……とか?

 老人にお返しって言ったらコレだろ。

 老人に孫。孫に老人。

 その組み合わせが微笑ましい。

 クユユがあのババアの孫かは知らんが。

 

 それに俺はヒヨコだから肩叩き出来ないしね。

 クユユがんばって。


「そうですね。食べ物を貰ったんですから、お返しは食べ物で返すべきですね!」


 そうきたか。


 肩叩き券→食べ物。

 何故そう分かった気でいるんだ。


 クユユが窓から顔を出し、ジータに尋ねる。


「ねぇジータン。アイスのお返しは何がいいと思います?」

『ヴァウ、ブォオウ(お返しか……。あれは素直に厚意として受け取るべきなのではないか?)』

「そうですね! やっぱり食べ物には食べ物ですよね! リサイクル!」

『ブゥゥオオ(待てクユユ。言葉を解する事が出来ぬのに何故問うてきた)』


 ジータが無言になる。

 なんだあいつら、漫才でもしてるのか?


「確か……、この湿った時期になると、森で美味しいキノコが生えてくるという噂を聞いたことがあります。そうです、キノコ! キノコがいいですね!」


 やめとけやめとけ。

 素人がキノコに手を出すべきではない。

 毒を食らってチ~ンするのが目に見える。


「さあ! そうと決まったら急がば回れ……? ですよ!」


 すくっと立ち上がり、意気込むクユユ。

 その瞳には確固たる意志が存在した。


 意気込みに言動が伴っていない。

 落ち着けクユユ。何だ回れって。


 発案から実行に移すのが早過ぎる。

 電撃作戦が過ぎんだろ。



 クユユが俺を摘もうとすると、部屋の奥からクユユのマミーの声が聞こえてきた。


「クユユ~、ちょっと手伝って欲しいんだけど~」

「え~、今はちょっと」

「お願い~」

「もう、分かったよ、今行くね」


 クユユの手が止まり、代わりに足を動かしてパタパタと自室を後にする。


 よっしゃあああああああああ!

 ナイスだ、クユユマザー!

 回避ー! セエェェーフウゥゥ! 


 思わず渾身のガッツポーズ。

 すると、窓からジータが顔を侵入させてきた。

 

「好機だピヨちゃん。今の内に件のキノコとやらを用意すれば、クユユはさぞかし喜ぶことだろう」


 アウトー!


「何で俺がそんな事を……めんどい」

「そう言うな。これはピヨちゃんにも美味しい話だ」

「……? どういうこと?」

「ピヨちゃんは何やら人間の食べ物に興味を持っているな、アイス然りと」


 まあ、そうだな。

 ミミズなんて食ってらんないし。

 元人間として。


「クユユが述べていたキノコとは、この湿った時期にしか姿を現さない希少なキノコのことだろう。さぞかし美味と聞く」

「そんなに?」

「俺自身が食したことはないが……、それを食べている動物なら見たことがある。皆が皆、夢中になってかぶりついていたな」

「まじか」


 そう聞くと何やら興味が出てくる。

 思えば異世界(こっち)に来てからキノコを食べてないな。


 キノコキノコ……。

 前世の記憶が蘇ってくる。


 エノキでなめ茸。エリンギの生姜焼き。

 椎茸の甘辛。落葉の醤油付け。


 うんうん、どれも美味しかった。

 よっしゃ、俄然にやる気が湧いてきた。


「うっし、採ってきてやろうじゃねぇか、その希少なキノコとやらを」

「ククク、本当はクユユの為に最初からそのつもりだったのだろう? 面白い奴だ」

「お前の頭が面白いな」


 ジータのこの流れは毎度の事なのでもう慣れた。

 それよりもキノコだ!


「で? そのキノコとやらは何なんだ?」

「この付近に小さな森があるが、その森は多くのキノコが群生している。そこで姿を現すのが件のキノコだ」

「場所が分かってんならさっそく行こうぜ」


 そう言って鳥カゴから抜け出す。

 俺が毎度毎度、鳥カゴを火で壊すため、既に施錠はされていない。クユユ本人も諦めている様だ。ゴメンナサイ。


 俺がジータの背に乗るとガクンとした振動する。すると、あれよあれよと視界の景色が一瞬で小さくなった。


「しっかり捕まってろ、ピヨちゃん!」

「ピヨヨヨヨヨヨ!」


 ジータが俺に注意を促して急発進。

 まるでジェットコースターに乗ってる気分だ。

 安全装置の付いてない奴。危ねぇ!

 もう2回ぐらい乗っているが未だに慣れない。


 すんげぇ風圧!

 く……空気抵抗がっ!


 あばばばばばばばば。

 待ってろ美味しいキノコココココココ。

 

 

 

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