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20、ひよこの恨みは怖いものだ

――『取得スキル:«テイム»』


 誰のものとも知れない中性的な機械音が俺の頭に霧の様に舞い降りる。


 この声は俺にしか聞こえない。

 だからあいつは不敵に笑って余裕を表情に灯すんだ。


「あははは! これで俺が最強だ。いくぞ、ヒヨコ!」


 ゼニアが雀躍する様に体を揺らす。

 俺がテイム出来る事がそんなに嬉しいか。

 

「そうら、テイム!」


 バシッと両手を平を俺へと突き付け、ゼニアは自信満々でテイムを唱えた。


 し~ん。

 

 終了。

 ゼニアが魔法を唱えるも不発に終わる。

 彼がが突き出した手は光を帯びる事は無かった。

 

 «テイム»は既に俺の物。

 従って奴がこの魔法を唱えられることは、この場ではもう二度と無い。

 

「何だ!? あれ、あれ? テイム! テイム!」


 何度も何度も手を振るゼニア。

 招き猫かお前は。


 蹉跌をきたす現状に納得のいかないゼニアは、手を平を俺に向かって何度も突き出す。


 理解不能、意味不明、そんな言葉が余裕の二文字に代わって、ゼニアの表情を汚く彩った。


「くそ!? なんだってんだ! テイム!」


 不発。


「テイム!」


 不発。


「テイムぅぅぅぅ!」


 不発。


「くそったれがあああああああああああ!」


 忿懣の色を露にしたゼニアが、嵐の様な頓狂の奇声を上げる。

 

 彼はどうやら半狂乱になる程に俺を欲していたようだ。しかし残念。俺の心は今クユユに向いている、その先におやつ、その先にエミィタちゃん。


 いくら仮にテイムされたとして、それは揺るぎない。

 それぐらい自信がある。従う訳がない。


 しかしそれは仮の話。

 現実ではぜニアはもうテイムを使えない。

 もう終わり。茶番だ。


 俺がゆっくりと一歩、また一歩と近づくと、伴ってゼニアも後退していった。その直後、焦りの混じった胴問声が室内に響き渡る。


「ドラゴォン! あの化物を殺せ! 今すぐだ!」

『ヴォアア!』

 

 ゼニアの指示に従い、ジータが俺へと猛々しい腕を振るわせ、鋭い爪先が一閃した。けれどもゼニアが掛けたテイムは不完全らしく、ジータの攻撃には攻撃性がほとんど無かった。


 ジータの攻撃をひょいっと避けて応戦。

 先ほど奪ったスキルを使う。

 ヒヨコテイムだ。


「テイム!」


 俺が唱えたテイムは青白い光となって暴れるジータを包み込む、やがて光は体に吸収されるかの様に収束していった。


 おそらく成功。

 ジータが大人しくなった。


「すまない、ピヨちゃん! 許してくれ。しかし本当にスキルとやらを奪えるようだな」

「ああ、そうだ。あとテイムってどうやって解除する」

「それを願うのだ、頭で念うのだ」


 なるほど、よっしゃ。

 思い浮かべればいいんだな。

 ん? よくワカンネ。

 

 テイム~解除~ジータ~。

 こうか?

 

「よし、テイムが解除されたぞピヨちゃん。また俺を自由にしてくれたな、すまない」


 良く分からんが解除されたらしい。

 良かった。良かった。


 これで再び攻勢が2対1。

 圧倒的にこちらが有利。


「ヴォアヴォア、ピヨピヨうるせえ! 何でヒヨコがテイムを使えんだ!」


 勝ち目が無いと判断したのか、ゼニアが口撃へと移った。

 口での罵り合いなら俺も負けない。


 前世で口からアマゾン川と恐れられた俺の実力を魅せてやる。


『ピィヨヨ』

「だからピヨピヨうるさいんだよ」


 くそ、そうだった。

 俺の言葉は全て人間には通じないんだった。

 もはや一歩通行。

 口での罵り合いでは意味の通じる俺が不利。


 俺が口ではなく力に頼ろうとしたその時、ゼニアが俺へと先手を打つ。


「この! 【ウォーター】!」


 冷たっ。

――『取得スキル:«ウォーター»』


「くそ! 【ファイアー】!」


 熱っ。

――『取得スキル:«ファイアー»』


「喰らえ! 【サンダー】!」


 痛てっ。

――『取得スキル«サンダー»』



 まさかの魔法ラッシュ。

 次から次へと魔法で畳み掛けてくるゼニア。

 どの攻撃もジータの突進以下。まったく効かない。


 使えば使う程、自身の持ち駒が無くなっていくのに気がついたのか、ようやく魔法の打つ手を止めた。


「魔法が……無くなっていく……。ちくしょう、どうなってやがんだ」


 奪ってます。

 それを伝えようにも意思疎通が出来ない。

 まあ出来なくても良いんだけど。


 

 為す術なし。

 それが分かったゼニアはもはや何もしなくなる。

 余裕が絶望へと変わる瞬間だった。


 すかさず、俺は飛び込み。

 ゼニアの顔面目掛けてヒヨコキック!


『ピヨオオオオオオオオオ!』

「うぎゃああああ!」


 ゼニアの顔がぐりんと横を向いて、そのまま床に倒れた。


「うううぅぅぅ……」


 驚いた、まだ意識があるらしい。

 ゼニアが苦しそうに呻き声を上げている。


 そんなゼニアに近づこうとすると、背後からジータの静止の声が聞こえてきた。


「よせ、ピヨちゃん。クユユが傷つけられて怒るのも無理はないが、ゼニアはもう動けない。これ以上は死んでしまう」

「ああ、分かってる。今のでクユユの分はおしまいだ」


 そう、これでクユユの分。

 後は個人的な恨み。

 こいつのせいで今日のおやつご褒美が無くなった。

 それが許せない。


 ボボボボボボボボボボボボボボ。


 ゆっくりと、ゆっくりと。

 弱めに弱火で。

 ゼニアの頭髪を火で炙っていく。


「やめてくれぇ……」


 うるさい。

 食い物の恨みは怖いんだぞ。

 食料を巡って部族抗争が勃発した島もあるんだ。

 むしろこれだけで済むんだ、感謝してほしい。


 ボボボボボボボボボボボボボボボ。


 1分もしない内にゼニアの頭皮がキラリ光る。

 月明かりを乱反射する頭……完成だ。


『ピヨヨ、ピョヨヨピヨピヨ(これに懲りたら、二度とクユユに手を出すな、下の毛も燃やすぞ)』


 そう、ゼニアに言い残す。

 通じないのは分かってる。

 でも、言わなくてはならない。


「帰ろう、ジータ。これ以上時間を費やせば家の奴が駆けつけてくるかもしれない」

「人の……いや、ヒヨコの恨みは怖いものだ。ゼニアの奴もこれで改心してくれればいいのだがな」


 クユユに手を出したらこうなるぞ……と、しっかりとゼニアに恐怖を植えこんだはずだ。

 明日、こっそりクユユに付いて行って、後を見守ることしか俺には出来ない。


 俺はジータの背に乗り、月光に照らされる外へと脱出した。

  



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