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19、犬死じゃねぇーか

 

 赤い月が雲の隙間から顔を覗かせている。


 不気味な月明かりに晒されながら俺は今、ゼニアが居る部屋のであろう2階の窓の外枠に立っている。


 ゼニアの家はレンガ調の屋敷だった。

 円形型に作られたこの屋敷。

 

 一見してペンタゴンが何かかと思ったがただの家だ。中でお偉い共がエイリアンの対策案を練るとか、秘密組織の行動許可を下したりしてはしない。映画の見過ぎか。


 月が雲の隙間から顔を出すこの時間に人目を盗んで家に侵入を試みるのは、何か怪盗みたいでワクワクする。


「ジータ、今から俺のことは怪盗アルセなんちゃら・ルパンと呼べ」

「む? あまり不審な行動はするなよ。いくら夜中といえども、怪しい動きをすればすぐに感づかれるからな」


 そう言うジータはレンガの壁に蜘蛛みたいに張り付いている。


 なにあれキモ。

 スパイダーマン?

 お前が一番不審だ。 


「ソレどうやって壁に掴まってんだよ」

「爪を壁に引っ掛けている、ククク、竜の俺としては容易いことよ」


 蜘蛛も出来ますがな。


「してどう侵入するのだ? この時間はゼニアはいつも一人で自室に篭っている時間だ。奴の個室に上手く侵入できれば他の人間の目に晒されずに済むのだが」

「簡単な事だ。要は大きい音を出さずに侵入すればいいんだろ?」


 そう、簡単なこと。

 窓ガラスを火で溶かせば音も出まい。


 火を吹こうとすると、ジータが壁を伝いながら近寄ってきた。爪先がレンガに引っ掛かる度にガラガラと壁が崩れる。


 やめろ、音を出すな。


「ピヨちゃん、まだゼニアが犯人と決まった訳ではない。従って手を出すなよ、こちらが不利になるやも知れん」

「わぁ~ってるって」


 丁度その時、グットタイミングにゼニアの独り言が聞こえてきた。


(そこまで、あのヒヨコに依存してるのか、クユユめ。明日もし、また連れてこなかったら、傷めつけるだけでは済まさない、今度はあの猫と同じく殺してやろうか)


 犯人じゃん。主犯じゃん。首謀者じゃん。

 しかもご丁寧に殺人予告まで。


 ジータも庇いきれないと無言になった。


 ボウ、ボボボボボボボボボボボ。


 有言実行。

 すかさず火を吐いてガラスを溶かしていく。


 やがてぽっかりと穴が空いた。

 その隙間を潜って室内へと侵入。

 すると、目を見開いたゼニアと目が合った。


「なんだこいつ!? お、おい、コロゥ! 殺せ! 殺せ!」


 有無をも言わさずゼニアが黄色い狼を俺にけしかけて来る。


 狼はむき出しにした牙を覗かせながら突進。

 一芸しかないのかこいつは。

 

 迫りきった狼の攻撃、左にサイドステップ。

 躱してすかさず蹴りをお見舞いしてやる。


 もちろん手加減してだ。

 ジータの話から察するに、どうも«テイム»を掛けられた使役獣は主人の命令に逆らえないらしい。


 この狼だって、俺に敵わないと知っている筈だ。

 今の突進だって不本意だろう。

 だから手加減。

 

 けれども狼は一撃で気絶してしまった。

 既にダメージが蓄積していたっぽい。


 誰にやられた? 決まってる、ゼニアだ。

 一度負けただけでジータに蹴りを入れる輩だ。

 なんかこう、いつも狼はボコボコにされてそう。


 気に入らない事があればすぐに手を出す。

 子どもか! いや子どもか。

 生後2週間にも満たない俺が言ってはなんだが。


 これ以上、ゼニアが何かしでかさないよう火を弱火で吹いて威嚇する。


 ボウッ、ボウッ。

 

 しかし、ゼニアは俺の威嚇に気圧される様子は見せなかった。逆に不敵に笑ってみせる。


「あの強さ……、クユユの使役獣だな。何でここに来たのかは知らんが、丁度良い。悪いなクユユ、お前の使役獣、貰うぞ」


 言ってゼニアが俺に向けて手の平を見せた。

 その手からは青白い光が漏れ出している。

 

 これは恐らく«テイム»とか言う魔法だろう。

 でもクユユの使役獣である俺に使うのか?


 そうか、分かったぞ。

 だからクユユは俺を学校へと連れて行かなかったのか。俺をゼニアに奪われるのを恐れて。

 

 だが、俺にテイムは効果ない。

 一度クユユに掛けられたが、体がちょっと動かなくなる程度だった。逆に二度と使えないよう奪ってやろう。


 そう考えて身構えると、ゼニアが口を開いた。


「テイ――むぅああああああああああああああ!?」


 あえなく不発。

 何を考えてんだか知らないが、轟音を響かせながらジータが壁を突き破って室内に侵入して来た。


 ええー……。

 不審な行動をするな?

 大きな音を立てるな?

 約束事を全部自分でぶち破りやがった。


 何考えてるのか分からないジータが俺を庇うようにして前に立つ。


 ゼニアとジータが視線を交えて対峙した。 


「ははは、元主の俺に牙を向けるのかドラゴン。だったらもう1回、俺の使役獣になれ! そこのヒヨコと一緒にな!」

『ヴォウヴォアア! (させぬ! 二度もあの少女に使役獣を失うという悲劇を繰り返しはさせん! 喰らえ、ドラゴンブレス!)』


 ジータが口をがばりと開けた。

 しかし何も出ない。


 あ、やべ。ジータのドラゴンブレス、俺が奪ってんだった。


「テイム!」

『ヴォアアアアアアアアアアアア!?』


 犬死しやがった……。


 ゼニアが放ったテイムがジータに直撃。

 あえなく撃沈。

 ジータはゼニアに下ってしまった。


 何やってんだあいつ。

 いや……悪いのは俺か?

 あ、やっべ。


「グヌヌ、済まぬ、ピヨちゃんよ。何故かドラゴンブレスが出ななんだ」

「ごめんジータ! 俺ってばスキル奪えんだよ。つまりは、お前のドラゴンブレスは今は俺のものなんだ。本当にごめん」

「そうか、あの時の模擬戦の時はそういうことだったのか、何と奇怪な技を使う……」

「ちなみに俺にテイムは効かない」

「つまり俺は、犬死ではないか。いや、今はそんなことにより、俺から離れろ!」


 いや、本当にすまなかった。

 


 ジータにゼニアはゆっくりと近づいていき、頭をそっと撫でた。


「ははは、ドラゴン、また俺の元に戻ってきたな。歓迎するよ、このヒヨコを使役した後でたっぷりとね」


 言って不気味に微笑むゼニア。

 そんな彼にジータは敵対心を露わにして、ガチガチと牙で火花を散らしているが、いかんせん何故か噛みつけないらしい。


 なるほど、主従絶対な感じなのね。

 それほどまでか、テイムとは。

 

 ジータへと顔を向けてたゼニアの首が、ゆっくりと回り、俺に振り向く。怖っ。


「さあヒヨコ、次はお前の番だ。そして、これで俺が最強だ」


 不敵に、妖艶に、不潔な笑顔を顔面にこびり付かせながら、ゼニアはニコニコと俺に言い放った。


 何を余裕をかましているのだろうか彼は。

 多分だが自身の持つテイムにうつつを抜かしているのだろう。


 だが、ゼニアはもうテイムを使えない。

 いや、もう使わせない。


『スキルを取得しました』

『取得スキル:«テイム»』


 テイムはもはや俺の物。

 

 俺におやつをくれたクユユを傷めつけた罰だ。

 食べ物の恨みは怖いぞ~。

 

 こっから全て、俺のターン。 

 

 

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