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15、チャーハンの墓

「ピヨちゃん、今日は学校に行かなくていいですよ」

『ピヨ?』


 早朝、日の出の時刻。

 学校でご褒美の戦果稼ぎのために張り切っていた俺にクユユに突然そう告げられた。


 学校へ行かなくていい? 何で。

 

「ごめんなさい、本当に今日はいいです」


 言ってクユユははにかむ。

 俺に有無を言わさず、彼女は学校への仕度を整えて去っていった。


 し~ん。


 昨日の馬鹿騒ぎが嘘みたいに静か。

 クユユの父親に風呂に連れてかれ、地獄を見た俺としてはこの静けさが心に出来た傷を癒やすというものだ。


 ちなみにお風呂はブリキだった。

 煮られるんじゃないかってヒヤヒヤした。

 だって鉄製の鍋みたいなんだもん。


 でも何で獣使役士の学校なのに、使役獣である俺を連れて行かないのか。


 あれか、今日の授業は普通科みたいな感じか。

 専門授業ではなく国数理みたいな。


 そうとなればしょうがない。

 ご褒美のおやつが貰えなくなるのはちと痛い。

 ……が、現在、この家には誰もいない。

 つまりは、台所を漁れという神の暗示か……?

 

 そうだろ、考えればここの所はパンしか食べてない。

 何か精の付く物を食べろということだな。

 

 うっし!

 そうと決まれば有言実行だ!

  

 もはや机から飛び降りるのもお手の物。

 ヒョンと飛んでドシンと着地。

 その高さ約15メートル。

 だが体には一切の痛み無し。


 家の間取りは前回の探索の時に頭に入れた。

 台所へと一直線。


 食事所というのは、クユユのタンスとはまた違った宝箱。


 あっちからいい匂い。

 こっちからいい匂い。

 どっちもこっちもいい匂い。


「――――ハッ!?」


 俺の鼻先を通ったのは砂糖と卵白の匂い。

 少々の香ばしい匂いも交じるこれは……。


 焼きマシュマロだ!


 匂いの発生源はキッチンの上。

 獣になってからか異様に鼻が利く。

 

 俺は力が強いと分かってから、この体の使い方も分かってきた。ドンと力強く床を蹴ると、なんとキッチンの上までひとっ飛び!


 そして眼前、焼きマシュマロ!

 いただきま~す!







 現在、クユユ宅の裏庭にて日光浴。

 懐に2つのマシュマロを抱えてちょっとしたピクニック気分だ。


 太陽がサンサン。

 マシュマロがト~ロットロ。

 して俺はホックホク。


 実にいい気分だ。

 何より心をルンルンにさせるのがマシュマロの大きさ。


 人間にとっては一口サイズだが、ヒヨコにとったら一つで大満足出来るぐらいの大きさを誇っている。


 羽から溢れんばかりのマシュマロを頬張りつつ……。

 昨日の続きでスキルについて考えてみる。

 スキルを考える……そうすると、頭に文字が浮かび上がってきた。


【スキル】

«スキル奪取»

«火炎放射»

«強靭な肉体»

«言語»【虫】【動物】

«文字理解»

«ドラゴンブレス»【闇】

«放電»

«考えるヒヨコ»

«本能に抗うヒヨコ»

«抗えなかったヒヨコ»


 これらは恐らく現時点、獲得しているスキルだ。

 «スキル奪取»とかそこらへんは効果を読まずしても、だいたい察すれる。«火炎放射»然り«強靭な肉体»然り«言語»然り。


«スキル奪取»

効果:敵と認識した相手のスキルを視認したものに限り奪う。


«強靭な肉体»

効果:ヒヨコを超越した体。


«言語»【虫】【動物】

効果:虫や動物と意思疎通出来る。



 大体はもう分かってた。

 今まで散々使ってきたからな。

 スキルの効果を知れての収穫はスキルの奪取方法と、言語の意思疎通が虫や動物で限定って所だ。


 文字理解は良く分からんが文字が読めるという効果らしい。

 そのへんは後で検証だな。



 なんとなく分かってきたぞ。このヒヨコの体。

 スキル関しては考えれば詳細を得られる。

 そして視認すれば敵から奪える。

 よっしゃよっしゃ。分かってきた。


 ヒヨコでの生き方も分かってきたし。

 マシュマロも食べれたし。

 もう俺は小おどりしそうだった。


 ワンステップ踏み込み、ふと背後へと振り向くと……。

 視線の先に、墓があった。


 えぇ~、気分が良くなってきたってのに墓?

 いや……重くね?

 空気が一気に静まり返りやがった。



 っていうか誰の墓?

 クユユ宅の裏庭にあったってことは、クユユ家の家族の墓ってことだろ。けれども人間が入るようなそんな立派な墓ではない。


 ちょっと雑草が抜き取られた一角、土がモコリと起伏している場所に石がチョコンと置いてあるだけ。


 して石には「チャーハン」と書かれていた。

 チャーハン? ああ、ペットね。多分だけどペットね。


 しかしペットにチャーハンと名付けるセンスの良さ。

 ヒヨコの俺に「ピヨちゃん」と名付ける家だぞ?

 それでチャーハンと名付けられるってどんなペットだったんだ。


 いや……知ってるな、俺。

 どんなペットだったか知ってるな。

 一度、キャットフードみたいな物を与えられた。

 つまり、猫だな。チャーハンは。


 して、そのキャットフードはクユユの部屋にあった。ってことはだ、チャーハンは俺の先代にあたる、クユユの使役獣ってことだな。恐らくだが。


 とりあえず手(羽)を墓前に合わせて合掌。南無。


 

 う~ん、使役獣って結構強いんだよな。

 今まで見てきたのだって、ブレス吐いたり放電してきたりって、それが死ぬとは何があったのだろうか? 寿命か?


 ともかくクユユは何か隠してるな。

 隠すって言っても意思疎通が出来ないだけなんだけれども。

 


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